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  • プロテアーゼ活性化受容体(PAR) protease-activated receptor (PAR)

    2022/08/16 更新
    2015/02/17 作成

    解説

    【分子量,半減期,血中濃度】
    トロンビン受容体はプロテアーゼ活性化受容体(protease-activated receptors; PARs)ファミリーに含まれ、細胞外領域を特異的なプロテアーゼで切断することで、細胞内ヘシグナルが伝達される。PARsファミリーは、現在までのところPAR-1、PAR-2、PAR-3、PAR-4という4つの受容体がクローニングされている。このうち、PAR-1、PAR-3、PAR-4はトロンビンによって活性化される。PAR-2はトロンビンではなく、トリプシン、トリプターゼ、活性化第VII因子、活性化第X因子といったセリンプロテアーゼによって活性化される。ヒトのPAR-1は第5染色体上に存在し、血小板1個あたり約2,000分子発現すると報告されている1)


    【構造と機能】

    PARsは7回膜貫通型のGタンパク質共役型受容体であり、ヒトPAR-1では結晶構造が報告された2)。トロンビンはPARs細胞外のN末端側のヒルジン様ドメインを切断し、表出されたthrombin receptor activating peptide(TRAP)がアゴニストとして作用する。PAR-1ではトロンビンによってN端のArg41とSer42の間で切断され、受容体の一部であるSer42からAsn47 までのアミノ酸配列SFLLRNがそのままリガンドとなる(図1)。TRAPによって活性化されたPARsは構造を変化させ、細胞内の三量体G蛋白質と共役する。


    【ノック・アウトマウスの表現形】

    ヒトの血小板にはPAR-1とPAR-4が発現している。低濃度のトロンビンでは、まずPAR-1が活性化され、血小板凝集反応の中核であるインテグリンαIIbβ3の活性化が惹起される。PAR-4は補完的な役割を担っている。PAR-1ノックアウトマウスでは、トロンビンによる血小板凝集の障害は認められなかった。PAR-3ノックアウトマウスでは、高濃度のトロンビンで野生型より遅れて血小板の反応が認められた。PAR-4欠損マウスでは、PAR-3が発現しているにもかかわらず、トロンビンに対する反応が完全に抑制された。マウスの血小板にはPAR-3とPAR-4が発現し、PAR-3がPAR-4のco-factorとしての役割を果たすことが示された。


    【病態との関わり】

    血小板では、PAR-1、PAR-4の活性化により、粘着、凝集、顆粒放出反応が惹起される。抗血小板薬として、PAR阻害薬の開発が注目されている3),4)血管内皮細胞や血管平滑筋にはPAR-1、PAR-2が発現し、NO依存性の血管拡張反応を惹起する。呼吸器系では、PAR-2は上皮細胞に発現し、気道平滑筋弛緩や炎症反応を誘発する。消化器系では、PAR-2は唾液腺や膵外分泌、平滑筋運動に関与している。血管内皮細胞におけるPAR-2発現はLPS、IL- lβ、TNF-αで著明に増加する。敗血症時の炎症反応にはPAR-1よりPAR-2の発現が優位で、凝固因子により活性化され、septic shockに関与することが示唆されている。


    【その他のポイント・お役立ち情報】

    PAR-1-activating peptide(AP)はSFLLRN、PAR-2-APはSLIGKV(ヒト)、SLIGRL(マウス)、PAR-3-APはTFRGAP(ヒト)、PAR-4-APはGYPGQV(ヒト)、 GYPGKF(マウス)である。実験上、マウス、ヒトともに、PAR-1-APとしてSFLLRN、PAR-2-APとしてSLIGRL、PAR-4-APとしてGYPGKFの変異体AYPGKFがよく用いられている。SFLLRNはPAR-1とPAR-2を活性化させるため、PAR-1特異的APとしてTFLLRが用いられることもある。

    図表

    • 図1.トロンビンによるPAR-1活性化

    引用文献

    1) Brass LF: The Molecular basis of platelet activation. Hoffman R, Benz EJ Jr., Shattil SJ, Furie B, Cohen HJ, Silberstein LE, McGlave P, Hematology: Basic principles and practice 4th ed, Elsevier Inc., 2005, 1899-1914.
    2) Zhang C, Srinivasan Y, Arlow DH, Fung JJ, Palmer D, Zheng Y, Green HF, Pandey A, Dror RO, Shaw DE, Weis WI, Coughlin SR, Kobilka BK: High-resolution crystal structure of human protease-activated receptor 1. Nature 492: 387-392, 2012.
    3) Morrow DA, Braunwald E, Bonaca MP, Ameriso SF, Dalby AJ, Fish MP, Fox KA, Lipka LJ, Liu X, Nicolau JC, Ophuis AJ, Paolasso E, Scirica BM, Spinar J, Theroux P, Wiviott SD, Strony J, Murphy SA; TRA 2P–TIMI 50 Steering Committee and Investigators.: Vorapaxar in the secondary prevention of atherothrombotic events. N Engl J Med. 366:1404-1413, 2012.
    4) Cunningham M, McIntosh K, Bushell T, Sloan G, Plevin R:Proteinase-activated receptors (PARs) as targets for antiplatelet therapy. Biochem Soc Trans. 44:606-612, 2016.