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  • NOS(一酸化窒素合成酸素) NOS(nitric oxide synthase)

    2022/06/28 更新
    2015/02/17 作成

    解説

    一酸化窒素合成酵素(nitric oxide synthase, NOS)はLアルギニンと酸素を基質としてLシトルリンと一酸化窒素 (NO)を合成する酵素である。生体内には3種類のNOSが存在する。内皮一酸化窒素合成酵素(endothelial NOS, eNOS)、誘導型一酸化窒素合成酵素(inducible NOS, iNOS)、神経型一酸化窒素合成酵素(neuronal NOS, nNOS)である。動脈硬化症や血栓症と関連が深いのはeNOSiNOSである。nNOSは中枢神経系で多く発現している。細胞のタンパク質の分解で生じる非対称性ジメチルアルギニン(asymmetric dimethylarginine, ADMA)は内因性のNOS阻害物質でありアルギニンからのNOの遊離を阻害する。

    【構造】
    eNOS, nNOS, iNOSの分子量は130kから160kで基本構造は50-60%の相同性を示す。同一分子内に酸化酵素ドメインと還元酵素ドメインをもつ。

    【機能】
    強力な血管拡張作用をもつeNOSの活性は血管壁を動脈硬化症から防ぐのに重要な働きをする。一方、iNOSの血管機能への影響は多彩で、動脈硬化症への影響も定まってはいない。通常の状態で一酸化窒素を合成するには、Lアルギニンのグアニジノ窒素に電子を伝達するために eNOSはヘム基近傍に結合しているテトラヒドロビオプテリン(tetrahydrobiopterin, BH4)を必要とする。Lアルギニンあるいは BH4が存在しない条件では eNOSはO2と H2O2を産生する(NOS uncoupling脱共役、アンカップリングと呼ばれる)。内皮細胞におけるeNOSのアンカップリングはNOの減少とO2増加、ペルオキシ亜硝酸(peroxynitrite)産生により酸化ストレスを亢進させ内皮機能を低下させる。NOと酸化ストレスのバランスは血管壁で動脈硬化症の進行、炎症、アポトーシスなどに関連した遺伝子の発現に影響する。3種のNOSの欠損マウス(NOSs系完全欠損マウス)は加齢、動脈硬化、冠動脈攣縮、メタボリック症候群などを示す。

    【病態との関わり】
    動脈硬化病変ではeNOSの活性が低下していることが実験的に示されている。内因性のNOS阻害物質ADMAは動脈硬化症、虚血性心疾患、閉塞性動脈硬化症、高血圧症、慢性腎不全や糖尿病等の循環器系疾患の危険因子である。ところが、心血管系疾患では過剰のNO産生がみられることがある。例えば、動脈硬化病変部位ではマクロファージがiNOSを過剰産生しているとの報告がある。そのような病態ではNOSの抑制が有効なアプローチと考えられている。一方、NOSs系完全欠損マウスの肺高血圧症モデルでは、野生型骨髄の移植により改善したことから、骨髄のNOS系は肺高血圧症に保護的役割を果たす。

    参考文献

    1)  筒井正人他:NO合成酵素完全欠損マウスの開発,Yakugakuzasshi 127:1347-1355,2007.
    2) 生越貴明,筒井正人,矢寺和博,迎 寛:第Ⅲ群肺高血圧症における骨髄一酸化窒素合成酵素系の病態意義,日薬理誌 155: 69-73, 2020.