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  • 凝固第XII因子(FXII) coagulation factor XII

    2025/06/09 更新
    2015/08/25 作成

    解説

    1) 分子量,半減期,血中濃度
    血液凝固第XII因子(FXII)は、肝臓で合成される596アミノ酸残基からなる糖タンパク質で、分子量は約80 kDaである。血中半減期は約60時間、⾎中濃度は約40 µg/mLとされるが、東洋人では白人と比較して血中濃度が低い傾向にある。

    2) 構造と機能
    FXIIは、他の凝固因子と同様に活性中心にセリン残基をもつセリンプロテアーゼの前駆体である。血漿中のカリクレインや活性化FXII(FXIIa)自身により、353番のアルギニンと354番のバリン間のペプチド結合が加水分解され、酵素活性を含む軽鎖と、陰性荷電表面に結合するドメインをもつ重鎖に分かれる。重鎖には他の凝固因子に特徴的なアップルドメインではなく、線溶因子に多いクリングルドメインが存在するため、構造的には凝固因子というより線溶因子に近いとされる。

    1960年以前、内因系凝固機能の測定には部分トロンボプラスチン時間(PTT)が用いられていたが、FXII因子を含む接触相に関連する因子の活性状態の変動のために検査結果のばらつきが大きいという問題があった。1960年以降、陰性荷電物質(カオリンなど)でFXII因子を活性化してから測定する活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)が主流となり、安定した検査法となった。

    FXIIの機能異常は、侵襲検査や手技の前に実施されるAPTT測定における著明な延長として検出されることが多いが、大部分の欠損症患者で出血症状が認められず、凝固反応における重要性は現在も議論がある。

    3) ノックアウトマウスの表現型
    2つの独立したグループによりFXIIノックアウトマウスが作製されたが、ヒトと同様に出血傾向はなく、妊娠・分娩異常も認められなかった。一方で、ブラジキニン産生に影響を及ぼすことや、コラーゲン刺激などによって血小板を活性化させた状態での血栓形成に異常を示すということが明らかとなり、FXIIが局所的な血栓形成に関与することが示唆されている。

    4) 病態との関わり
    FXIIはハーゲマン因子とも呼ばれ、これはこの因子の先天性欠損者であるハーゲマン氏に由来する。ハーゲマン氏は出血傾向を示すことがなく、肺塞栓症で亡くなったことは有名である。かつてはFXII機能低下と不育症の関連が指摘されたが、現在では先天的な抗原値の低下は不育症と関連しないことが明らかとなっている。一方、抗リン脂質抗体症候群に合併するFXIIに対する自己抗体の発生が不育症と関連することが判明してきた。

    5) その他のポイント・お役立ち情報
    FXII変異体の中には機能亢進型が存在し、これが原因で遺伝性血管性浮腫(Hereditary AngioEdema: HAE)を発症する。これに対する治療薬としてCSL Behring社が開発した抗体医薬Garadacimab(CSL312)は第III相試験で良好な結果を示し、2025年2月20に国内承認され、4月18日に発売された。

    参考文献

    1)Baeriswyl V, Calzavarini S, Gerschheimer C, Diderich P, Angelillo-Scherrer A, Heinis C. Development of a selective peptide macrocycle inhibitor of coagulation factor XII toward the generation of a safe antithrombotic therapy.J Med Chem. 2013 May 9;56(9):3742-6.
    2)Pauer HU, Renné T, Hemmerlein B, Legler T, Fritzlar S, Adham I, Müller-Esterl W, Emons G, Sancken U, Engel W, Burfeind P. Defective thrombus formation in mice lacking coagulation factor XII. Thromb Haemost. 2004 Sep;92(3):503-8.

    3)Iwaki T, Castellino FJ. Plasma levels of bradykinin are suppressed in factor XII-deficient mice. Thromb Haemost. 2006 Jun;95(6):1003-10.

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