- 大分類
-
- 凝固
- 小分類
-
- 分子
凝固第XII因子(FXII) coagulation factor XII
解説
1) 分子量、半減期、血中濃度
血液凝固第XII因子(FXII)は肝臓で合成される596のアミノ酸残基から構成される糖タンパク質で、分子量は約80,000である。血中半減期は60時間、血中濃度は40μg/mLとされるが、東洋人は白人に比較して血中濃度が低い傾向にある。
2) 構造と機能
FXIIは他の凝固因子と同様に活性中心にセリンの存在するセリンプロテアーゼ前駆体である。血漿中のカリクレインや活性化したFXII (FXIIa) 自体が、353番のアルギニンと354番のバリン間にあるペプチド結合を加水分解する反応を触媒することで、酵素活性を含む軽鎖と陰性荷電表面に結合するドメインをもつ重鎖に分かれる。重鎖には他の凝固因子に特徴的なアップルドメインではなく、クリングルドメインが存在し、分子構造としては凝固因子よりは線溶因子に近い。FXIIの機能異常はインビトロアッセイである活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)の延長によって検出されるが、生体内で凝固反応に直接影響がないことから、凝固反応における重要性は特にないものと考えられている。
3) ノック・アウトマウスの表現型
2つの異なるグループからノックアウトマウスの作成が行われたが、特に出血傾向もなく、妊娠分娩に異常を認めなかった。しかし、ブラジキニンの産生に影響を及ぼすことや、コラーゲン刺激などによって血小板を活性化させた状態での血栓形成に異常を示すということが示されており、局所的な血栓形成においては何らかの役割が示唆されている。
4) 病態との関わり
FXIIは別名ハーゲマン因子と呼ばれるが、これはこの因子の先天生欠損者であるハーゲマン氏にちなんで名づけられたからである。ハーゲマン氏はその他の患者同様、特に出血傾向を示すことなく肺塞栓症で亡くなったことは有名である。最近では、不育症との関連も報告されている。
5) その他のポイント・お役立ち情報
最近では外因系凝固機能に影響を与えずに内因系凝固系を抑制する(参照:「血液凝固機序―内因系・外因系」)目的でFXIIの阻害薬が開発されてきており、血栓性疾患の新たな治療薬として注目されてきている。
参考文献
1)Baeriswyl V, Calzavarini S, Gerschheimer C, Diderich P, Angelillo-Scherrer A, Heinis C. Development of a selective peptide macrocycle inhibitor of coagulation factor XII toward the generation of a safe antithrombotic therapy.J Med Chem. 2013 May 9;56(9):3742-6.
2)Pauer HU, Renné T, Hemmerlein B, Legler T, Fritzlar S, Adham I, Müller-Esterl W, Emons G, Sancken U, Engel W, Burfeind P. Defective thrombus formation in mice lacking coagulation factor XII. Thromb Haemost. 2004 Sep;92(3):503-8.
3)Iwaki T, Castellino FJ. Plasma levels of bradykinin are suppressed in factor XII-deficient mice. Thromb Haemost. 2006 Jun;95(6):1003-10.