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  • 弁置換術後の抗凝固療法 anticoagulant therapy after valve replacement

    2015/04/30 作成

    解説

    【概要】
     機械弁、生体弁に関わらず、人工弁置換術後は血栓塞栓症を予防するために抗凝固療法が必要である。血栓塞栓症のリスクが高いか低いかによって、ワルファリンによる抗凝固療法の推奨域が設定されている。高リスクとは心房細動、血栓塞栓症の既往、左心機能の低下、凝固亢進状態のいずれかを有する場合、また低リスクはいずれも有しない場合を言う。術後3ヶ月未満かどうかや、手術した弁によっても多少異なる。血栓塞栓リスクは、弁が十分に内皮化する以前の弁置換術後数日~数ヶ月の方が高く、僧帽弁置換の方が大動脈弁置換よりも高いとされている。


    【治療の実際】

     血栓リスク、術後の期間、弁の種類などを考慮して目標PT-INRを決定する。血栓合併症予防にはPT-INR 2.0以上が目標となる。一方,出血性イベント抑制のためのPT-INR上限を2.5~3.0とする.生体弁に関しては、植込み後3ヶ月未満は血栓塞栓リスクが増大しており、その期間は全例でワルファリンの投与が必要であるが、低リスク群では3ヶ月以降はワルファリンを中止できる。


    【疫学】

     PT-INRを良好にコントロールしていても、機械弁植込み患者の血栓塞栓症リスクは年間1~2%ある。洞調律の生体弁植込み患者では、血栓塞栓症リスクは年間約0.7%である。


    【お役立ち情報】

     人工弁が血栓により閉塞した場合は、抗凝固療法は無効である場合が多く、再弁置換術が必要となる。また、日本人の血栓塞栓症発生率は海外と比べると低いことが知られているが、逆に出血性イベントは多くPT-INR1.5~2.5を推奨している報告もある1)。大きな外科手術を実施する場合などではワルファリンを中止することがあるが、3日間のワルファリン中止による塞栓リスクは0.08~0.16%と推定されており、術後出血が落ち着いたら可及的早期のヘパリン製剤投与が推奨されている。新規経口抗凝固薬(NOAC)ダビガトランとワルファリンとの比較試験ではダビガトラン群に血栓合併症が多く,NOACは弁置換術後には適応とならない.

    引用文献

    1) Matsuyama K, Matsumoto M, Sugita T, Nishizawa J, Yoshida K, Tokuda Y, Matsuo T: Anticoagulant therapy in Japanese patients with mechanical mitral valves. Circ J 66: 668670, 2002.

    参考文献

    1) 日本循環器学会循環器病の診断と治療に関するガイドライン.