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活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT) activated partial thromboplastin time(APTT)
解説
【概要】
活性化部分トロンボプラスチン時間(activated partial thromboplastin time; APTT)は、血液凝固能のスクリーニングテストとして日常の臨床検査に用いられる。内因系凝固因子と共通系凝固因子の働きを反映しそれらの異常を検出するほか、ループスアンチコアグラント(LA)の検出、未分画ヘパリンのモニタリング検査などにも利用される。
【基準値】
標準化されていないため試薬・機器による違いがある。正常対照が25~40秒程度のことが多いが、各施設で基準範囲を設定することが望ましい。基準範囲を超えた場合は精査の対象とする。
【測定法・測定原理】
APTT測定に際しては、検体取扱いに十分に注意する必要がある。具体的には、血漿中の残存血小板が測定結果に影響を与え、特にLA検体では凝固時間の短縮につながるため、遠心条件は、遠心機の温度設定は18℃~25℃とし、遠心力と遠心時間は2mL用採血管では1,500 x gで最低15分間(または2,000 x gで最低10分間)とし、血漿中残存血小板数が1万/µL未満であることを確認する。採血量が多い採血管では遠心時間を延ばす。また、溶血、ビリルビン、乳びは検査結果に影響を与えることに注意する。検体取扱いの詳細については、凝固検査検体取扱いに関するコンセンサスを参照する。
原理は3.2%クエン酸ナトリウム加被検血漿に、シリカやエラグ酸などの活性化剤とリン脂質を含むAPTT試薬を加えることで、活性化剤がFXIIを活性化させ、次いでCaイオン(塩化カルシウム溶液)を加えてフィブリン析出までの時間を測定するものである。目視検査が可能だが、フィブリン形成を測定する自動分析装置が一般的である。
Langdell(1953)によってPTT(partial thromboplastin time)は血友病のスクリーニングとして考案されたが、再現性が低いという課題があった。その原因は検体によって採血時の内因系凝固因子の活性化に差があることが関係しており、高い再現性を得るために接触因子を活性化させた後にCaイオンを加えて凝固時間を測定するAPTTが開発された。なお、部分トロンボプラスチンとは、組織トロンボプラスチンのクロロホルムまたはエタノール抽出物で血小板第3因子様作用をもつリン脂質分画のことで、組織トロンボプラスチンの一部分という意味である。
【異常値を示す病態とそのメカニズム】
APTTの延長は接触因子(FXI, FXII, HMWK, PK)とFVIII、FIX、共通経路の凝固因子(FV, FX, プロトロンビン、フィブリノゲン)の低下や様々な凝固阻害物質の存在を反映する。APTTは、血友病などの先天性の凝固因子欠損、後天性の凝固因子インヒビター産生に加えて、肝硬変など肝臓のタンパク質合成能低下、ビタミンKの欠乏、マクログロブリン血症など異常タンパク質が産生される病態などによって凝固時間延長を示す。さらに、大量出血やDIC(播種性血管内凝固)などの凝固因子消費、LAによるリン脂質依存性の凝固反応阻害によっても延長を示す。また、未分画ヘパリンのモニタリングとして用いられることに加えて、低分子ヘパリン、経口抗凝固薬(ワルファリン、ダビガトラン、リバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバンなど)の服用などでも延長を示す。APTT延長の全てが出血傾向を意味するわけではないことに注意が必要である。
【標準化の動向】
本法は標準化が行われていないため、試薬の性質により各疾患、抗凝固薬への反応性(APTT延長の有無やその程度)が異なる。
APTT試薬に対し、凝固因子に対する感度については、凝固因子活性が少なくとも30%未満の検体で基準範囲より延長することをCLSIのガイドラインでは求めているが、より軽度の欠乏に対する感度の標記や検出目標は示されていない。また、凝固因子活性30%の検体の調製方法にも課題があり、評価方法についても検討が必要である。
未分画ヘパリンのモニタリングは、anti-Xa assayによって得られたヘパリン血中濃度0.3~0.7 U/mLに対して、APTTの正常対照に対する延長度が1.5~2.5倍となるようにモニタリングすることが推奨されている。しかしながら、APTT試薬によってヘパリン感度が大きく異なることが報告されている。さらに、ヘパリンを添加したスパイク試料とヘパリン投与患者検体では挙動が異なることも報告されているため、ヘパリンモニタリングを実施する際には使用試薬の反応性を事前に十分確認する必要がある。
LAはリン脂質依存性の凝固反応を阻害する免疫グロブリンと定義され、各APTT試薬のLAへの感受性は試薬中のリン脂質濃度・組成に依存することが報告されている。ヘパリン感度と同じく、使用試薬のLA感受性を事前に確認して検査を行う必要がある。
図表
東京医科大学病院である期間に測定したAPTTの分布 N=9901 (引用文献1より引用)
引用文献
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