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  • PAI-1阻害薬

    2025/06/13 作成

    解説

    血栓症のみならず悪性腫瘍やメタボリック症候群におけるplasminogen activator inhibitor-1(PAI-1)の上昇が注目されるようになってきており、PAI-1阻害による病態への介入可能性にも関心が集まっている。

    詳細は本用語集にあるPAI-1の機能と構造を参照していただきたいが、活性型のPAI-1(図A)のReactive Center Loop(RCL)はtissue type plasminogen activator(tPA)/urokinase-type PA(uPA)といわゆるミカエリス複合体を形成したのち、共有結合を形成した直後にA-sheetの真ん中に挿入され、PAは不活化される。しかし、PAI-1は不安定な分子でこの挿入反応がセリンプロテアーゼと反応しない場合にも起こる。図Cの様にビトロネクチン(図中オレンジで示す)が結合すると、活性型の安定性が向上する。

    分子構造的にPAI-1機能を阻害するために様々なコンパウンドが開発されてきた。
    1. CDE-096
    PAI-1のB-sheetとC-sheetに存在するポケットにCDE-096が結合することで、PAI-1のコンフォメーションが変化し、RCLとPAとのミカエリス複合体の形成が阻害されることが、結晶構造解析により明らかにされている(図Bの白矢印)。

    2. PAI-039
    PAI-039は、PAI-1とビトロネクチンの結合部位に競合的に作用することでPAI-1の安定化を阻害し、潜在型あるいは切断型に誘導することで、その機能を抑制すると考えられている(図Cの白矢印)。この結合様式は結晶構造解析では未確認だが、分子ドッキングシミュレーションおよび結合実験により支持されている。なお、これらの化合物は臨床試験には用いられていない。

    3. TM5614
    東北大学では先進的なin sillicoシステムを用いることで、RCLのA-sheetへの挿入を阻止する部位(図Aの活性型hPAI-1における黄色点線で示された部位)を標的とした創薬を行い、TM5614の開発に成功した。現在は、RS5614としてレナサイエンス社によって開発が継続されている。構造科学的にも興味深い化合物であるが、最近の結晶構造解析(使用された結合分子はTM5614の先行分子であるTM5484)によると、当初意図された部位の結合は確認されず、PAI-039と同様にビトロネクチンの結合部位に作用することでPAI-1阻害機能を担っていることが示唆されている(図Dの白矢印)。いずれにせよ、複数の疾患に対する臨床試験は現在も進行中であり、2024年8月には悪性黒色腫に対して希少疾患用医薬品の指定を受けている。

    図表