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  • セロトニン serotonin

    2015/02/17 作成

    解説

    【概要】
     セロトニンは、神経伝達物質として働くだけではなく、血小板凝集惹起物質としても機能する。1942年にRapportらにより発見され、ウシの血清より精製された。セロトニンは広く植動物に存在し、ヒトでは95%以上が消化管の腸クロム親和性細胞から産生、放出され、脳および血小板に貯蔵されている。脳および血小板では血中遊離セロトニンを細胞膜表面の12回膜貫通型セロトニントランスポーター(5-HT transporter; 5-HTT / serotonin transporter; SERT)により選択的に細胞内に取り込んで集積している。血小板では濃染顆粒に脳ではセロトニン作動性神経に貯蔵されている。

    【分子量】
     C10H12N2O (M.W. 176.22)

    【半減期】
     血小板の半減期と同じ3-5日

    【血中濃度】
     100-200μg/L  ほとんどは血小板中に存在している。

    【構造と機能】
     セロトニンは必須アミノ酸のトリプトファンの代謝過程で合成される中間物質であり、5-ヒドロキシトリプトファン(5-HTP)を経て、5-ヒドロキシトリプトアミン(5-HT)として合成される(図参照)。
     中枢神経系の神経伝達物質だけではなく、血小板凝集や血管環境の制御を含め循環器系でも様々な役割をしている。セロトニン自身の血小板凝集効果は弱く可逆的であるが、他の血小板凝集惹起物質の作用を促進するとされている。コラーゲン刺激により血小板濃染顆粒より放出されたセロトニンは、血小板膜表面に存在するセロトニン受容体(5-HT2A)に結合し、血小板凝集を生じる。またセロトニンは出血の際、血管平滑筋細胞膜上にも存在する5-HT2Aを刺激して血管収縮による直接的な止血効果をもたらす一方、血管内皮細胞に存在する5-HT1Bに結合すると血管拡張因子として働く一酸化炭素(nitric oxide; NO)の放出を促す効果もある。通常血管内皮機能が正常であれば、血管の拡張と収縮は保たれている。

    【ノック・アウトマウスの表現形】
     セロトニン合成過程の律速酵素であるトリプトファン水酸化酵素1(tryptophan hydroxylase; TPH)を欠損したマウスでは、心臓機能障害や心不全が認められる。

    【病態との関わり】
     セロトニンの減少により、神経伝達物質であるドーパミンやノルアドレナリンの作用を抑制できず、うつ病等の精神障害を発症することもある。

    図表

    • 図 セロトニンの生合成

    引用文献

    1) Freyburger WA, Graham BE, Rapport MM, Seay PH, Govier WM, Swoap OF, Vander Brook MJ: One of the earliest studies describing the role of serotonin in the body as a smooth muscle stimulating agent. J Pharmacol Exp Ther 105: 80-86, 1952.
    2) Fidalgo S, Ivanov DK, Wood SH: Serotonin: from top to bottom. Biogerontology 14: 21-45, 2013.

    参考文献

    1) Jonnakuty C, Gragnoli C: What do we know about Serotonin? J Cell Physiol 217: 301-306, 2008.
    2) Mercado CP, Kilic F: Molecular mechanisms of SERT in platelets: regulation of plasma serotonin levels. Mol Interv 10: 231-241, 2010.

    3) 原 啓人:抗血小板療法サルポクレラート,血小板生物学.メディカルレビュー社,809-817.