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  • Ehlers-Danlos症候群 Ehlers-Danlos syndrome

    2015/02/17 作成

    解説

    【病態・病因】
     Ehlers-Danlos症候群(EDS)は,結合組織であるコラーゲンコラーゲン修飾酵素などの遺伝異常により発症する疾患群の総称である.主要な臨床的な特徴には,皮膚,靭帯,血管や内臓の組織脆弱性により起こる動脈合併症(解離や破裂),臓器損傷(消化管破裂)や逸脱(ヘルニア),関節過可動性や脱臼,皮膚過伸展や筋緊張低下,易出血,創傷治癒遅延がある.臨床的特徴,遺伝様式,および分子学的評価に基づいて6つのサブタイプに分別される(表).古典型,関節可動亢進型や血管型のほうが頻度的に多く,後側彎型,多発性関節弛緩型と皮膚脆弱型は稀である.


    【疫学】

     EDSの有病率は人種素因を問わず,全ての発症形式を合計すると約5,000から10,000出生に1人の割合で発症すると推定されている.


    【検査と診断】

     EDSは,通常は本疾患の特異的な臨床的特徴,家族歴によって診断することが可能である.ただし,必ずしも発症形式に見合った症状が存在しないことや同じ家系内でも症状の個人差があり,診断の遅れや見落としがある.出血傾向があるが,血小板機能や凝固反応は正常であるため,血算や凝固検査などの臨床検査には異常はない.組織の脆弱性のため,紫斑や萎縮性瘢痕化が,膝・肘・額・あごなどの力のかかる場所に多く認められ,局所は変色して創傷治癒が損なわれている.大動脈拡張は多くないが僧帽弁逸脱を認めるため,心エコー検査は実施すべきである.過伸展による関節の慢性疼痛があるが,骨X線写真は正常である.分子遺伝学的に遺伝子変異型を検出することは診断として有用であるが,特殊機関でないと困難である.


    【治療】

     病因に対する治療法はない.症状軽減や予防,対症療法はEDSのすべての発症形式に適用可能で,これらは専門家による臨床経験に基づいたものである.
     皮膚の脆弱性による裂傷や関節過伸展に対しては,膝やすねの上に保護パッドを着用し,保護する.皮膚創傷などがある場合には,皮膚に緊張を与えず丁寧かつ慎重に縫合すること,粘着テープをもちいて隣接する皮膚を付加的に固定すること,また固定期間を延長することは,瘢痕が伸張するのを防ぐのに有用である.適切な補修を行い,創部外観を損なわないよう注意する.出血傾向に対しては,アスコルビン酸を用いることによりコラーゲン線維の架橋のための補助因子が補充され,一部の患者で改善を認めることもある.また,トラネキサム酸,酢酸デスモプレシン(DDAVP)は,術後出血など軽減すると報告がある.著明に出血傾向のある場合には,激しい運動や接触があるスポーツを避け,関節痛緩和のためのNSAIDs(抗炎症薬)も控えることが推奨される.筋緊張低下から運動発達遅延となることがあり,理学療法が重要となる.遺伝カウンセリングや救急時の対応が出来る,医療機関の選定が重要である.

    図表

    • Ehlers-Danlos症候群(EDS)

    参考文献

    1) Parapia LA, Jackson C: Ehlers-Danlos syndrome–a historical review. Br J Haematol 141: 3235, 2008.
    2) Callewaert B, Malfait F, Loeys B, De Paepe A: Ehlers-Danlos syndromes and Marfan syndrome. Best Pract Res Clin Rheumatol 22: 165189, 2008.
    3) Bolton-Maggs PH, Perry DJ, Chalmers EA, Parapia LA, Wilde JT, Williams MD, Collins PW, Kitchen S, Dolan G, Mumford AD: The rare coagulation disorders–review with guidelines for management from the United Kingdom Haemophilia Centre Doctors’ Organisation. Haemophilia 10: 593628, 2004.

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