大分類
  • 凝固
  • 小分類
  • 治療
  • 血友病に対する遺伝子治療

    2022/06/28 更新
    2015/02/17 作成

    解説

    【概要】

     血友病は血液凝固第VIII因子(FVIII),または凝固第IX因子(FIX)の遺伝子異常による先天性出血性疾患である.凝固因子製剤が出血の治療,予防に使用されているが,半減期が短いために頻回の投与を必要とする.遺伝子治療は1回の治療で長期に治療効果が得られるため,血友病診療が抱える問題点を解決すると期待されている.


    血友病遺伝子治療の分類】

     現状の遺伝子治療法は,異常遺伝子はそのままで,外来遺伝子を細胞から強発現させる手法が中心である.この外来遺伝子強発現による血友病遺伝子治療法のストラテジーは,1)生体へのベクターの直接投与,2)凝固因子を強発現させた細胞移植,に大きく分けられる.最近ではZFNやCRISPR-Casなどのゲノム編集によって、染色体DNAにに直接アプローチする手法も開発されている。

    1) AAVベクターを用いたベクターの直接投与法:血友病に対しては、ベクターを直接投与する手法はアデノ随伴ウイルスベクター(AAV)の臨床応用が最も進んでいる(図).AAVはパルボウイルス属の非病原性ウイルスで健常者でも不顕性感染する場合がある.非分裂細胞にも遺伝子導入が可能なこと,免疫原性が少ないなど利点が多いが,搭載される遺伝子長が5 kbp程度に限られる.様々な血清型が存在し,その型により投与した際の臓器特異性が異なる.AAV8は静脈投与で,凝固因子産生部位である肝臓に遺伝子導入が高効率で可能である.血友病では血友病Bに対するAAV8の臨床試験の有望な成績が報告されている[1].さらに肝臓への感染性が高い複数の血清型が開発されており、実際に臨床応用が進んでいある。2020年代には治療薬が上市される可能性が高い。AAVベクターをもちいた遺伝子治療の弱点として、AAVの感染を阻害する中和抗体発現の回避がポイントと成る[2].また、AAVはエピゾームに存在するため、肝細胞の増殖が盛んな小児期には適応にならない。

    2) 細胞治療法:細胞治療とはex vivoで細胞に凝固因子を発現させ,この細胞を移植することで血友病治療を行う手法である.線維芽細胞,脂肪細胞,間葉系幹細胞,内皮細胞,肝臓細胞など,様々な細胞でウイルスベクターやプラスミドベクターを用いて凝固因子を発現する技術は確立しており,種々の動物モデルにおいて,その細胞投与により凝固因子レベルの上昇を認める多くの論文がある.長期的な細胞維持・インヒビターの発現の制御が課題である.細胞治療の工夫として,細胞シートを用いる手法,また関節症予防・治療のための関節内投与法などが報告されている[3,4].

    図表

    引用文献

    1) Nathwani AC, Tuddenham EG, Rangarajan S, Rosales C, McIntosh J, Linch DC, Chowdary P, Riddell A, Pie AJ, Harrington C, O’Beirne J, Smith K, Pasi J, Glader B, Rustagi P, Ng CY, Kay MA, Zhou J, Spence Y, Morton CL, Allay J, Coleman J, Sleep S, Cunningham JM, Srivastava D, Basner-Tschakarjan E, Mingozzi F, High KA, Gray JT, Reiss UM, Nienhuis AW, Davidoff AM: Adenovirus-associated virus vector-mediated gene transfer in hemophilia B. N Engl J Med 365: 2357-2365, 2011.
    2) Mimuro J, Mizukami H, Hishikawa S, Ikemoto T, Ishiwata A, Sakata A, Ohmori T, Madoiwa S, Ono F, Ozawa K, Sakata Y: Minimizing the inhibitory effect of neutralizing antibody for efficient gene expression in the liver with adeno-associated virus 8 vectors. Mol Ther 21: 318-323, 2013.
    3) Tatsumi K, Sugimoto M, Lillicrap D, Shima M, Ohashi K, Okano T, Matsui H: A novel cell-sheet technology that achieves durable factor VIII delivery in a mouse model of hemophilia A. PLoS ONE 8: e83280, 2013.
    4) Kashiwakura Y, Ohmori T, Mimuro J, Yasumoto A, Ishiwata A, Sakata A, Madoiwa S, Inoue M, Hasegawa M, Ozawa K, Sakata Y: Intra-articular injection of mesenchymal stem cells expressing coagulation factor ameliorates hemophilic arthropathy in factor VIII-deficient mice. J Thromb Haemost 10: 1802-1813, 2012.