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Scott 症候群 Scott syndrome
解説
【病態・病因】
Scott症候群は活性化した血小板膜表面の凝固活性が低下するために生じる遺伝性の出血性疾患であり,発端者の名前からこの病名がつけられた。出血症状は比較的軽微であるが,手術等に際して出血が問題となることがある。測定可能な各種凝固因子の抗原量,活性は正常であるが,プロトロンビンの消費の抑制が認められる。
血小板は活性化される際には内部のCa2+が上昇し,細胞膜のリン脂質の外層と内層の構成に変化が生じ,ホスファチジルセリン(PS)が血小板表面に露出する。この変化により,血小板膜表面では活性化した凝固第V因子,第VIII因子の結合が促進され凝固反応が進行する。Scott症候の患者血小板においては,PSの血小板表面への露出が抑制されているため,止血異常をきたすことが明らかとなっている。1994年にKojimaらによって,この異常は患者から樹立したBリンパ球細胞株においても認められること,継代しても異常が引きつがれることが証明され,何らかの遺伝子異常が原因として推定された。
2010年Suzukiらは,アポトーシスの際にPSが細胞表面に露出するメカニズムの研究から,その機能を担う分子として,膜タンパクであるTMEM16Fを同定した。彼らはKojimaらが樹立したBリンパ球細胞株の供与を受け,この細胞ではTMEM16Fの遺伝子異常が検出され,このタンパクが正常に産生されないことを明らかとした。その後,他のScott症候群の患者においてもTMEM16Fの異常が検出され, TMEM16Fの異常がScott症候群の原因であると考えられている。
【疫学】
非常に稀な疾患であり,世界的にも報告はきわめて少ない。本邦での報告は現在までない。比較的症状が軽微であり,通常の検査法では診断が困難であることから,これまで診断が得られていない症例があることも推定される。
【検査と診断】
通常の凝固異常のスクリーニング検査に加え,測定可能な凝固因子の抗原量,活性はすべて正常であり、出血時間を含め通常の血小板機能検査は正常である。検査法としては,1)prothrombin consumption index (PCI), 2)platelet factor 3 availability (PF3a) assay, 3)Annexin V bindingなどがあるが,3)の検査法はアポトーシス細胞の検出法としてキットも開発されており,本疾患の診断に応用が可能と考えられる。また,確定診断のためにはTMEM16Fの遺伝子異常の解析を試みることが必要である。
【治療の実際】
通常の生活においては問題となる出血をきたすことはないとされているが,手術などに際する止血管理のためには正常血小板の輸血(血小板輸血)が必要な場合がある。
参考文献
1) Suzuki J. et al: Calcium-dependent phospholipid scrambling by TMEM16F. Nature 468: 834-838, 2010.