- 大分類
-
- 線溶
- 小分類
-
- 疾患
先天性α2プラスミンインヒビター(α2-PI)異常症・欠損症/先天性α2アンチプラスミン(α2-AP)異常症・欠損症 Congenital alpha2-plasmin inhibitor deficiency/Congenital alpha2-antiplasmin deficiency
解説
【概要】
プラスミンを不活化するα2-プラスミンインヒビター(α2-PI、α2-アンチプラスミン;α2-APとも呼ばれる)の先天的な低下や機能異常に伴う病態で、出血傾向を呈する(1, 2)。いわゆる常染色体潜性遺伝形式をとり、ホモ欠損の場合、α2-PIが著しく低下しているため出血傾向を呈する。しかし、ヘテロの欠損症でも出血傾向を呈する場合があり、純粋な潜性遺伝というわけではない。抗原量と活性がともに低下しているtype Iと(1)、抗原量と活性の間に乖離が認められるtype IIとがある(2)。極めて稀な疾患であり、これまで十数家系の報告があるのみである(3)。
【臨床症状】
一旦止血は起こるが、しばらくして止血部位からの出血(いわゆる再出血)を呈するのが特徴され、歯科または外科処置および外傷後の出血などが報告されている(1-3)。しかし症状がひどい場合は止血困難と判断され、軟部組織血腫、歯肉出血、関節内出血などが認められる場合もある。また遷延する出血のため、損傷治癒の遅延が報告されている。女性の場合、月経過多や月経の遷延、流産や早産などの産科出血合併症や過多月経など認が認められる。また新生児の臍帯出血も認められる。ホモの欠損症のみならず、ヘテロの欠損症でも術後の再出血などの出血傾向を呈する場合がある(1-3)。
【検査所見】
α2-PIの活性が低下が認められる(1-3)。現在日常診療で使用されているα2-PIの活性測定法は、既知量のプラスミンを検体中のα2-PIで不活化した後、残存プラスミン活性を合成基質で測定する方法である。このためα2-PIのプラスミン阻害能は反映すると考えられる。しかし凝固第XIII因子を介したフィブリン結合能の異常に関しては反映しない可能性がある。このためtypeII機能異常症では日常診療では見落とされる可能性があるが、詳細は不明である。抗原量(免疫学的測定)は日常診療では通常行われていない。ROTEMなどのトロンボエラストグラムでは異常値を示すと考えられるが、十分な検討は行われていない。ユーグロブリン分画にはα2-PIは吸着されないため、必ずしも異常を呈するものではない(1)。
【鑑別診断】
肝硬変やL-アスパラギナーゼ投与などによる肝合成能の低下にともない、α2-PIの活性の低下を認める場合がある。またDICなどに合併して消費性の低下を呈する場合がある。ALアミロイドーシスでは凝固活性化を伴わない線溶系の活性化の結果、α2-PIの活性を認める場合がある。
【治療】
トラネキサム酸による線溶制御療法が有効である(1-3)。補充療法としては新線凍結血漿の輸血を行う(3)。α2-PIの濃縮因子製剤はないため、特異的補充療法はできない。クリオプレシピテートにはα2-PIは濃縮されないため、その効果は極めて限定的である。
【その他】
出血性線溶異常症(指定難病347)の一つであり、公的医療助成対象疾患である。
引用文献
(1) Aoki N, Saito H, Kamiya T, K Koie, Y Sakata, M Kobakura. Congenital deficiency of alpha 2-plasmin inhibitor associated with severe hemorrhagic tendency. J Clin Invest. 1979;63:877-84.
(2) Kluft C, Nieuwenhuis HK, Rijken DC, Groeneveld E, Wijngaards G, van Berkel W, Dooijewaard G, Sixma JJ. alpha 2-Antiplasmin Enschede: dysfunctional alpha 2-antiplasmin molecule associated with an autosomal recessive hemorrhagic disorder. J Clin Invest. 1987;80:1391-400.
(3) Matrane W, Bencharef H, Oukkache B. Congenital alpha-2 antiplasmin deficiency: a literature survey and analysis of 123 cases. Clin Lab. 2020; 66. doi: 10.7754/Clin.Lab.2020.200207.