- 大分類
-
- 凝固
- 小分類
-
- 機構
血液凝固系と補体系のクロストーク Cross talk between blood coagulation and complement system
解説
1.補体系とは
補体系は20種以上の可溶性および膜結合性のタンパク質が関わる生体防御系である。補体系には3つの活性化経路がある。古典経路とレクチン経路の活性化はC3転換酵素C4b2b(C4b2aはC4b2bに変更された)を形成し、第二経路の活性化はC3転換酵素C3bBbを形成する。これらのC3転換酵素がC3をC3aとC3bに切断する。生成したC3bはC3転換酵素に結合してC5転換酵素であるC4b2b3bもしくはC3bBbC3bを形成し、C5をC5aとC5bに切断し活性化する。
補体の活性化で生成したC3bは細菌などに結合しオプソニンとして働く。C5aは分子量約9 kDaのペプチドで、C5a受容体(C5aR1)を発現する細胞に対して炎症性メディエーターとして働く。C5bは細菌などの細胞膜でC6、C7、C8およびC9が重合し、膜侵襲複合体(C5b-9)を形成して小孔を形成し傷害を与える。
2.補体因子の凝固系への影響
補体の活性化は凝固系の活性化に繋がる。具体的には、C5aはC5aR1を介して白血球に組織因子を発現・誘導する。C5b-9が血小板や血管内皮細胞の膜に形成されると、酸性リン脂質であるホスファチジルセリンが細胞の外膜に露出する。これが凝固反応の”場”を提供することになり、凝固第X因子やプロトロンビンなどのビタミンK依存性血液凝固因子が結合してトロンビン形成が進行する。
レクチン経路のMASP-1は精製系でプロトロンビン、第XIII因子、TAFI、血小板トロンビン受容体を活性化すると報告されている。
3.マウスを用いた補体系の血栓形成にかかわる研究
マウスを用いた研究より、補体は静脈および動脈の血栓形成に関わることが示されている。C3欠損マウスとC5欠損マウスに下大静脈狭窄モデル(静脈血栓モデル)を用いると、これらの欠損マウスでは血栓量とフィブリン量が減少した。これより、C3とC5は血栓やフィブリンの形成に関わることが明らかになった。この静脈狭窄モデルでは、白血球での組織因子の発現と、ホスファチジルセリンの細胞外膜への露出が起こり、フィブリン形成に繋がっていた。
好中球から放出されるneutrophil extracellular traps(NETs)が血栓形成に関わるかについて、NETsを放出しないPeptidylarginine deiminase 4欠損マウスに静脈狭窄を施したところ、フィブリン形成に差は見られなかった。また、C3a受容体欠損マウスを用いた研究では、脳梗塞巣と心筋梗塞巣の減少が示された。
4.ヒヒを用いた補体系と血栓形成の研究
霊長類のヒヒを用いた研究でも、生体内での凝固系と補体系のクロストークが示されている。ヒヒに大腸菌を投与する重症敗血症モデルでは、補体系と凝固系の両経路の活性化が示された。このモデルにC3活性化を阻害するコンプスタチンおよびC5活性化を阻害する環状ペプチドを投与すると、補体活性化マーカーの抑制だけではなく凝固活性化マーカーも抑制され、C5活性化阻害ペプチドの投与では組織障害と死亡率が低下した。
5.凝固・線溶因子による補体活性化に関する研究(動物モデル)
マウスを用いた研究やin vitroの研究で、トロンビンとプラスミンがC5aを産生すると報告されているが、ヒヒの生体内にトロンビンとプラスミンを生成させた研究はそれを支持しなかった。したがって、生体内では単にトロンビンとプラスミンが生成しても補体を活性化しないと考えられた。
6.補体因子異常で生じる血栓症
補体活性化の抑制不全により起こる血栓症として、非典型溶血性尿毒症症候群(atypical hemolytic uremic syndrome, aHUS)が知られている。aHUSは血栓性微小血管症(Thrombotic microangiopathy, TMA)で、補体活性化の制御異常により発症する。最近では補体関連TMAとよばれる。補体関連TMAは遺伝的な補体制御因子異常(H因子、I因子、MCP、THBD、C3、B因子)と抗H因子抗体が原因である。
参考文献
宮田敏行、井上徳光、「補体が関わる血栓症」、日本血栓止血学会誌、32(6): 695-707, 2021.
宮田敏行、井上徳光、「補体と血栓」、補体、55(2): 13-45, 2018.
大隈浩一、中垣智弘、岩永貞昭、「血液凝固系と補体系のクロストーク」、日本血栓止血学会誌、22(4): 171-185, 2011.