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  • 第XI因子欠乏症・異常症 congenital factor XI deficiency/abnormality

    2025/08/28 更新
    2015/02/17 作成

    解説

    【概要】
    先天性第XI因子欠乏症・異常症は、血液凝固第XI因子(FXI)抗原量の低下を伴った、凝固第XI因子活性の低下による常染色体潜性遺伝形式の稀な血液凝固異常症である。

    遺伝子
    XI因子遺伝子(F11)は第4染色体q35に存在し、全長約23kb15のエクソンから構成されている。

    病態・病因
    出血症状は無症状も多く、比較的軽度であるが、症例により著しく異なる。遺伝子バリアント(遺伝子変異)をもつヘテロ接合体例でも出血症状を示すことがある1)。凝固第XI因子活性の程度と出血傾向の強さは関連性はない。一般的に自然出血は稀であるが、鼻出血や血尿が現れることがある。特に、線溶活性が亢進している口腔内や泌尿生殖器領域からの出血が特徴的であり、関節・筋肉内出血は稀である。外傷や外科的手術に際して、出血症状が出現し、さらに、遅発性に出血がおこることがある。
    アシュケナージ系ユダヤ人では、Ashkenazi Jewish variantとして知られている3種類の第XI因子異常(活性低下)に関連する遺伝子バリアントがある。タイプ1は、F11イントロン14のスプライシング異常 (NM-000128.4(F11): c.1716+1G>A)、タイプ2F11エクソン5のナンセンス変異 (NM-000128.4(F11): c.403G>T, (p.Glu135Ter)、タイプ3F11エクソン9のミスセンス変異(NM-000128.4(F11): c.901T>C, (p.Phe301Leu)である。

    疫学
    重症型第XI因子欠乏症の発生頻度は稀で100万人に1人である。人種差が著しく、アシュケナージ系ユダヤ人では、変異のヘテロ接合体例で軽症型第XI因子欠乏症は8人に1人と非常に頻度が高い。

    日本においては、血液凝固異常症全国調査令和6年度(2024年)報告書(財団法人エイズ予防財団)では、先天性XI欠乏・低下症/異常症は66例(男性28例、女性38例)が登録されている。

    EAHAD(the European Association for Haemophilia and Allied Disorders)のCoagulation Factor Variant DatabaseF11バリアントデータベースには、1275403種類のF11遺伝子バリアントが載っている(20258月現在)。

    検査と診断
    ホモ接合体例の患者では、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)が著明に延長するが、プロトロンビン時間(PT)は基準範囲内にある。軽症型やヘテロ接合体例ではAPTTは基準範囲内かやや延長している程度であるので、本症を疑う場合は凝固第XI因子活性の測定が必要である。確定診断には遺伝子解析が必要になることもある。

    治療の実際
    出血の可能性は個々の症例により異なるが、変異のタイプや因子活性をもとに治療計画をたてる。手術時や外傷時などの止血管理は、新鮮凍結血漿(FFP)の輸血を行うが、高い血中濃度を必要とする場合は血漿交換療法も考慮する必要がある。最少止血レベルは1020U/dlとされているが、大手術では50 U/dl以上を維持する必要がある。生体内の回収率は100%近くであり、半減期は4884時間とされている。局所の止血にはフィブリン糊を用い、抗線溶薬の併用も行われる。抜歯の際にも抗線溶薬が有効である。
    日本では上述のように補充療法としてFFPを投与するが、海外では血漿分画製剤として、Hemoleven®LFB, France)とFactor XI ConcentrateBPL, Elstree, UK)のFXI製剤がある。

    引用文献

    1) James P, Salomon O, Mikovic D, Peyvandi F. Rare bleeding disorders – bleeding assessment tools, laboratory aspects and phenotype and therapy of FXI deficiency. Haemophilia. 20 (Suppl 4):71-5. 2014.

    2)J Davidson S, Gomez K. Laboratory and Molecular Diagnosis of Factor XI Deficiency. Semin Thromb Hemost. 51(2):145-154, 2025.

    参考文献

    1) Duga S, Salomon O: Congenital factor XI deficiency: an update. Semin Thromb Hemost 39: 621-631, 2013.
    2) Batty P, Honke A, Bowles L, Hart DP, Pasi KJ. Uprichard J, Austin SK: Ongoing risk of thrombosis with factor XI concentrate : 5 years experience in two centres. Haemophilia. 21(4):490-5. 2015.