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    2015/02/17 作成

    解説

    病態・病因
     Glycoprotein VI(GPVI)はイムノグロブリン・スーパーファミリーに属する分子量62kDの膜貫通型糖タンパクで、血小板、巨核球にのみ存在する。何らかの原因で血管内皮細胞が傷害されると、内皮下のコラーゲンが血流に暴露されるが、GPVIコラーゲンの受容体として、ずり応力下での血小板活性化において極めて重要な役割を果たす。

     GPVIの欠損症は、1)先天性GPVI欠損・機能異常症、2)後天性GPVI欠損症に大別される。先天性GPVI欠損症は常染色体劣性に遺伝する。後天性GPVI欠損症の中には、抗GPVI自己抗体の関与が明らかなタイプと、原因不明のものがある。これまでに報告されたGPVI欠損症の多くは後天性である。抗GPVI自己抗体が関与する病型においては、この抗体が原因となり特発性血小板減少性紫斑病 (ITP) として発症することが少なからず認められる。抗GPVI抗体によってGPVIが欠損する機序としては、1)抗体によって惹起される血小板活性化に起因するGPVI分子のshedding、または2)抗原抗体反応後のGPVI分子の細胞内内在化が想定されている。

    疫学
     GPVI欠損症は極めて稀な疾患であり、これまでに13例が報告されているにすぎない(2014年現在)。報告された13例のうち、1例を除いて全例が女性である。このうち4例が先天性と診断され、6例で抗GPVI自己抗体の存在が証明されている。一般にGPVI欠損症では出血症状が比較的軽いため、診断に至らず見逃されている可能性がある。ITPとして発症する場合には血小板減少による出血傾向が主症状となり、自己抗体のepitopeが検索される機会が少ないため、ITPと診断されている症例の中にGPVI欠損症が含まれている可能性がある。


    症状

     紫斑、鼻出血、歯肉出血、過多月経など比較的軽微な出血症状で発症し、生命に関わるような重症出血傾向を呈することはない。これまで報告された症例のほとんどは成人発症である。小児発症例2例(10歳、12歳)が報告されているが、幼少期発症の報告はない。後天性の病型においてはITPとして発症することが多く、この場合には血小板減少を合併する。

    検査と診断
     血小板凝集能の検査において、コラーゲン、convulxin (CVX) などGPVI特異的なアゴニストで刺激した場合の血小板凝集をほとんど認めない。アデノシン二リン酸(ADP)、ristocetinなど他のアゴニストによる血小板凝集には異常を認めない。血小板凝集パターンからGPVI欠損症を疑った場合には、GPVIの欠損をフローサイトメトリ―やimmunoblottingで確認する必要がある。ここまでの検査でGPVIが欠損していることは診断できるが、さらに抗GPVI自己抗体の存在を証明するには、可溶性GPVIに対する患者イムノグロブリンのbinding assayを行う必要がある。また、先天性GPVI欠損を疑う場合には、両親の血小板におけるGPVIの発現や血小板RNAの解析などの検査が必要である。これらの検査のうち、血小板凝集能解析、フローサイトメトリ―以外は一般の検査室での実施は困難である。


    治療の実際

     ITPとして発症した場合には、ITPに準じた治療を行う。それ以外の病型では対症療法以外の治療法はないが、重症の出血傾向を来たすことはないので臨床上問題とはならない。

    参考文献

    1) 諸井将明:コラーゲン受容体異常症:GPVI欠損症,血栓止血学会誌 16:187-194,2005.
    2) 柏木浩和,秋山正夫,冨山佳昭:自己抗体と血小板機能異常,血栓止血学会誌 21:271-277,2010.
    3) Arthur JF, Dunkley S, Andrews RK: Platelet glycoprotein VI-related clinical defects. Brit J Haematol 139: 363-372, 2007.

    関連用語