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  • トラネキサム酸・イプシロンアミノカプロン酸 tranexamic acid

    2025/05/16 更新
    2015/02/17 作成

    解説

    1.概要

    トラネキサム酸(trans-4-aminomethyl cyclohexane-1-carboxylic acid, tranexamic acid)は、本邦で開発された抗プラスミン剤である。線維素溶解(線溶)反応の主酵素であるプラスミンの生成とプラスミンによる線維素(フィブリン)の分解を阻害する。線溶亢進病態に起因する出血傾向や異常出血に対して用いられる唯一の薬剤である。

     

    2.作用機序

    トラネキサム酸はアミノ酸の「リジン」残基に類似した構造をもち、組織プラスミノゲンアクチベータ(tPA)やプラスミノゲン、プラスミンがフィブリンに結合するための「リジン結合部位」に高い親和性を有する。この部位がトラネキサム酸により塞がれると、リジン残基を介してフィブリンに結合することができず、フィブリン上で生じるプラスミノゲンの活性化反応やプラスミンによるフィブリン分解反応がともに抑制される(図)。

     

    3.検査

    線溶亢進病態の診断や病勢の評価、トラネキサム酸の適否や治療効果を判断する客観的な検査手法は確立されていない。

     

    4.適応と主な臨床試験

    トラネキサム酸による抗線溶療法は、線溶亢進病態を是正し出血症状を改善するための対症療法である。トラネキサム酸の適応および投与法は、トランサミン®の医療用医薬品添付文書に準拠する。

    重篤な外傷性出血患者を対象とした無作為化比較試験(CRASH-2試験)において、受傷後3時間以内のトラネキサム酸の投与が血栓症イベントを増加させることなく、28日目までの出血に起因する死亡率を減少させることが明らかにされた。また外傷性脳損傷患者を対象とした無作為化比較試験(CRASH-3試験)では、受傷後3時間以内のトラネキサム酸投与により非重症患者の受傷後28日目までの脳損傷関連死が減少する可能性が示されている。さらに産後出血をきたした妊産婦を対象とした無作為化比較試験(WOMAN試験)において、早期(分娩後3時間以内)のトラネキサム酸投与が血栓性合併症を増加させることなく、出血に関連する死亡率を低下させることが報告されている。

    一方で、くも膜下出血患者を対象とした無作為化比較試験(ULTRA試験)では予後の改善効果がみられなかったことや、急性消化管出血患者を対象とした無作為化比較試験(HALT-IT試験)では死亡率が低下せず静脈血栓塞栓症が増加したことも示されている。

     

    5.注意点

    トラネキサム酸投与の適否や用量、投与期間などについては慎重かつ専門的な判断が求められる。

    播種性血管内凝固(DIC)をきたす疾患では、線溶亢進病態による出血症状がみられるような場合でも凝固亢進病態が併存する。とくに急性前骨髄球性白血病(APL)患者に対するレチノイン酸(ATRA)とトラネキサム酸の併用療法は、致死的な血栓症を招く危険があり避けるべきである。またトラネキサム酸は糸球体ろ過により排泄される腎排泄型の薬剤で、経静脈投与の場合、血漿中での半減期は約120分とされる。腎機能が低下した患者では腎排泄の遅延により血中濃度が上昇するため、投与量を減じるないしは投与間隔を調節する。

    図表

    参考文献

    DIC診療ガイドライン作成員会. 日本血栓止血学会 播種性血管内凝固(DIC)診療ガイドライン2024. 日本血栓止血学会誌 2025;36(1):68-156.

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    Rossaint R, Afshari A, Bouillon B, et al. The European guideline on management of major bleeding and coagulopathy following trauma: sixth edition. Crit Care 2023;27(1):80. DOI: 10.1186/s13054-023-04327-7.

    Relke N, Chornenki NLJ, Sholzberg M. Tranexamic acid evidence and controversies: An illustrated review. Res Pract Thromb Haemost 2021;5(5):e12546. DOI: 10.1002/rth2.12546.