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リン酸化VASP(VASP-P) VASP phosphorylation(VASP-P)
解説
【基準値】
Platelet reactivity index(PRI)が以下の式で算出される。
PRI = [MFIc(PGE1) MFIc(PGE1+ADP) / MFIcPGE1] X 100
MFIc(PGE1) = PGE1存在下での特異的mean fluorescence intensity(MFI)
MFIc(PGE1+ADP) = PGE1+ADP 存在下での特異的MFI
クロピドグレル服用患者では6.6-85.8%の間にばらつきがみられる。PRI 50%以上を示す場合にクロピドグレル抵抗性があると判断する。
【測定法・測定原理】
VASP(vasodilator stimulated phosphoprotein)は静止血小板の状態ではほとんどリン酸化されていない血小板内タンパク質である。PGE1はcyclic AMPを活性化してVASPのリン酸化(VASP phosphorylation: VASP-P)を起こす(図1)。アデノシン二リン酸(ADP)はP2Y12受容体への結合を介してcyclic AMPを抑制するのでVASP-Pを低下させる。ADPとPGE1が共存する条件下でP2Y12受容体の阻害活性はVASP-Pと相関する。すなわちクロピドグレルによってP2Y12受容体が阻害されるとADPの作用が発現されにくくVASP-PはPGE1単独刺激時のVASP-Pの程度に近づき、PRIは小さくなる。しかし、クロピドグレル抵抗性があるとADPの作用によってVASP-Pは少なくなり、その結果、PRIは大きくなる。
VASP-Pはリン酸化されたVASPを特異的に認識するモノクローナル抗体を用いたフローサイトメトリーで測定する。測定用キットがPLT VASP/P2Y12 kitの名称でBiocytex社(フランス)から販売されている。また、フローサイトメーターがなくてもELISA法でVASP-Pを検出できるキットも販売されている。
【異常値を示す病態とそのメカニズム】
クロピドグレルの薬効に抵抗性を示す患者を上述の測定原理によって同定することができる。
【異常値に遭遇した際の対応】
クロピドグレル抵抗性を示す患者はステント血栓症など心血管イベントの発生が多いことが知られている。しかしこのような患者にクロピドグレルを増量しても臨床転帰の改善にはつながらないことが大規模臨床試験で証明されている。
【その他のポイント・お役立ち情報】
VASP-P測定キットは欧州で臨床検査として承認されているが、本邦では研究用としてのみ使われている。また、本キットを用いてシロスタゾールの薬効も測定できることが報告されている。
図表
参考文献
1) 羽藤高明:抗血小板薬モニター検査の臨床的意義,日本血栓止血学会誌 23:352-357,2012.
2) 佐藤金夫:全血を測定試料とする血小板機能評価法,日本血栓止血学会誌 23:288-293,2012.
3)Abtan J et al. Identification of poor response to P2Y12 inhibitors in ACS patients with a new ELISA-based vasodilator-associated stimulated phosphoprotein (VASP) phosphorylation assay. Thromb Haemost 110:1055-1064, 2013
4) Ikeda Y et al. Association of platelet response to cilostazol with clinical outcome and CYP genotype in patients with cerebral infarction. Thromb Res 172:14-20, 2018