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リンパ管新生 lymphangiogenesis
解説
■概要
リンパ管新生には、既存のリンパ管から出芽する「lymphangiogenesis」と、未分化中胚葉系細胞からリンパ管内皮細胞が新たに形成される「lymphvasculogenesis」の2種類が存在する。リンパ管の発生は、この2種類の新生機構が相補的に作用することにより成立する。胎生期においては、総主静脈からのlymphangiogenesisが主要なリンパ管の発生源であるが、未分化中胚葉由来のリンパ管内皮細胞の形成も確認されている。
一方、成体においては、炎症や腫瘍といった疾患に続発して誘導されるリンパ管新生は、主としてlymphangiogenesisに起因すると考えられる。しかし、lymphvasculogenesisに基づく新生については、依然として研究が進展途上にある。
■リンパ管新生に重要な因子
1)vascular endothelial growth factor (VEGF)-CおよびVEGF-R3
VEGF-Cは、主に炎症刺激等により間葉系細胞で誘導され、リンパ管内皮細胞上のVEGF-R3を活性化することで、その増殖および遊走を促進する。また、fibroblast growth factor-2、hepatocyte growth factor、platelet derived growth factor-BBなどのリンパ管新生も、VEGF-Cの間接的な作用を介して発現するとされる。
2)podoplanin
podoplaninは、血小板活性化受容体であるC-type lectin-like receptor2(CLEC-2)を介した血小板凝集を誘導し、これにより血流遮断が生じる。血流遮断は、静脈からリンパ管へ分離する過程において必須の役割を果たす。
3)転写因子
Prox1は、リンパ管内皮への分化のマスター遺伝子として、VEGF-R3、FoxC2、Ang2等の発現制御に寄与する。FoxC2は、NFATc1との協調作用により、リンパ管の成熟過程に関与する。
■病態との関わり
1)リンパ浮腫
先天性リンパ浮腫(Milroy病)は、VEGF-R3の変異に起因する。一方、Lymphedema-Distichiasis症候群は、FoxC2の変異による常染色体優性遺伝病として知られる。これらの疾患では、正常なリンパ管網の形成不全が局所の浮腫や組織の炎症を引き起こすとともに、慢性化することで線維化が進行し、機能障害を生じる可能性がある。
2)腫瘍
VEGF-C/D-VEGF-R3系の活性化は、腫瘍微小環境において新たなリンパ管の形成を促進し、リンパ行性転移のリスクを増大させる。また、所属リンパ節内でのリンパ管新生は、転移細胞が留まりやすい「リンパ管ニッチ」を形成し、転移拡大に寄与する。さらに、腫瘍組織内でのリンパ管新生は、免疫細胞の浸潤パターンにも影響を及ぼし、腫瘍免疫における複雑な双方向性の作用が示唆されている。
3)炎症・創傷治癒
炎症性メディエーターは、間質細胞におけるVEGF-Cの産生および内皮のVEGFR-3発現を誘導し、リンパ管新生を促進する。集蔟したマクロファージや顆粒球も、VEGF-C/Dの分泌により局所の浮腫、炎症性浸潤、ならびに抗原提示細胞の活性化に関与する。これの作用を介し、炎症部位における免疫応答の調整が図られ、創傷治癒過程においてもリンパ管網の再構築が重要な役割を果たすこと考えられる。
4)移植免疫
宿主の新生リンパ管内皮におけるCCL21の発現は、移植片由来の樹状細胞のリクルートやアロ抗原認識を引き起こし、拒絶反応の誘発に関与する。これにより、移植後の免疫応答の制御において、リンパ管新生が重要な調節因子として働く可能性が示唆される。また、リンパ管新生の抑制を試みる治療戦略は、拒絶反応の軽減や移植片の生着率向上に寄与することが期待されている。
図表
図1.リンパ管発生とリンパ管新生(参考文献2 Figure2改変)
参考文献
1) 血管研究と血管治療,実験医学増刊28(17),羊土社,2010.
2) Tammela T, Alitalo K, Cell 140: 460-476, 2010.