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Wiskott-Aldrich 症候群 Wiskott-Aldrich syndrome
解説
【病態・病因】
Wiskott-Aldrich症候(WAS)は、通常男児に発症するX染色体連鎖性劣性の原発性免疫不全症であり、血小板サイズの減少を伴う血小板減少、湿疹、易感染性を3徴候とし、自己免疫疾患や悪性腫瘍を高率に合併する。その病因は、X染色体上(Xp11.22)に存在するWASタンパク(WASP)をコードする遺伝子の変異である。
WASPは501個のアミノ酸からなるマルチドメイン構造を有し、造血系細胞に発現している。その役割は、細胞表面からのシグナルをアクチン細胞骨格に伝達することであり、WASPに結合する様々なタンパク質とともに機能している。これまでに数多くの遺伝子変異が報告されており、変異の種類による表現型の違いにより多様な臨床症状を呈することが判明している。特にリンパ球におけるWASPの発現量が臨床症状と関連することが指摘されている。
WASPが発現していない場合は重症例が多く、上記の古典的な3徴候を示すことが多い。血小板減少は出生直後からほぼ全例に見られ、乳幼児期から中耳炎、肺炎、副鼻腔炎、皮膚感染症、髄膜炎などを反復し、難治性のアトピー様湿疹を有する。また、自己免疫性溶血性貧血、血管炎、腎炎、関節炎、炎症性腸疾患などの自己免疫疾患や悪性リンパ腫を合併することもある。
WASPの発現がある場合は、免疫不全を伴わず血小板減少のみを呈するX連鎖性血小板減少症(X-linked thrombocytopenia: XLT)として発症する場合があり、他の疾患による血小板減少症との鑑別が必要となる。
【検査と診断】
臨床症状からWASを疑った場合は、末梢血単核球内のWASPの発現量をフローサイトメトリー法で検出することがスクリーニング検査として有用である。WASPが発現していないか、または減少している場合は、確定診断としてWAS遺伝子変異を検出することが不可欠である。
【治療】
サイズの減少を伴う血小板減少はWASとXLTに共通する症状であるが、脾摘により血小板数および血小板サイズは是正される。ただし自己免疫疾患や悪性リンパ腫の発症率は低下しないため、脾摘は免疫不全を伴わないXLT等で施行される。重大出血、手術時には血小板輸血を行い、感染症予防のために抗生物質、抗真菌剤、抗ウイルス剤を投与、さらにIgG低下時や重症感染時にはγグロブリンを補充する。また、ヘルペス属ウイルス感染のリスクが高いため、EBウイルスとサイトメガロウイルスのモニタリングを必要に応じて行う。
根治的治療は造血幹細胞移植であるが、移植に伴うリスクを十分に鑑み、臨床的な重症度を考慮して判断する必要がある。例えば、WASPタンパク発現を認めず、感染を繰り返す症例では早期に移植を考慮すべきである。移植は5歳以下の若年ほど成功率が高いとされている。
近年、WASPノックアウトマウスを用いた遺伝子治療の基礎研究、患者末梢血T細胞へのWAS遺伝子導入などが報告されており、臨床応用に向けての今後の発展が期待される。
参考文献
1) 笹原洋二:Wiskott-Aldrich 症候群の分子病態からみた感染症とWIPの役割,小児感染免疫23:75-80,2011.
2) Massaad MJ, Ramesh N, Geha RS: Wiskott-Aldrich syndrome: a comprehensive review. Ann. N. Y. Acad. Sci. 1285: 26-43, 2013.