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ヘビ毒タンパク質と凝固系 Snake venom protein and blood coagulation system
解説
【概要】
ヘビ毒には多様な生理活性を示す50-200種類のタンパク質とペプチドが含まれている。その作用は極めて特異性が高く、強力なので研究ツールや医薬品シードとして用いられてきた。
【血液凝固系に作用するヘビ毒タンパク質】
ヘビ毒には、多種類の血液凝固因子インヒビターとアクチベータが見出されている。ハブ毒やヒャッポダ毒からは凝固第X因子あるいは凝固第IX因子に強固に(ナノモル濃度オーダー)結合し、抗凝固活性を示す抗凝固タンパク質(IX/X-bp, IX-bp, X-bp)が単離され、その構造・性質や立体構造が詳細に解析された。それらの分子量は28,000-29,000である。これらは凝固第X因子や凝固第IX因子の重要な機能ドメインに結合するユニークな作用機序を持つ。一方、ラッセルクサリヘビ毒やEchis leucogaster毒からはそれぞれ、強力な血液凝固第X因子アクチベータ(RVV-X)とプロトロンビンアクチベータ(CA-1)が単離された。両者はいずれも凝固第X因子とプロトロンビンのGlaドメインに結合する特異性を有する。
【血小板に作用するヘビ毒タンパク質】
ヘビ毒には血小板受容体に結合する多数のアゴニストとアンタゴニストが含まれる(図)。ヘビ毒タンパク質はいずれもC型レクチン様タンパク質である。いずれのタンパク質もその特異性が非常に高いので、複雑な血小板凝集機構の解明に有用な研究ツールとなった。マレーマムシ毒に含まれるロドサイチン(rhodocytin)を用いる研究がきっかけとなり、ロドサイチンはまったく新しい血小板膜受容体CLEC-2を標的とすることや膜タンパク質ポドプラミンがCLEC-2の生理的リガンドであることが明らかにされた。
【血管内皮細胞に作用するヘビ毒タンパク質】
血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor, VEGF)は血管の形成に必須なタンパク質ファミリーである。哺乳動物には5種類のサブタイプが見出されている。最近、ヘビ毒にはそのホモログが見出され、7番目のサブタイプVEGF-Fとして分類された。VEGF-Fは既知のVEGF-Aとは構造と機能が異なっている。特に血管内皮細胞の増殖活性や血管透過性亢進活性は、VEGF-Aより強い。
【総括】
ヘビ毒に含まれる興味深い生理活性タンパク質やペプチドは、良く解析されている種でもわずか10%内外である。視点を変え研究することで、ヘビ毒から新規で有用な生理活性成分が見出されよう。
図表
参考文献
1) 山崎泰男,森田隆司:毒ヘビによってつくりだされる血液毒タンパク質の構造と機能―トキシン研究はいまなお有効か?,蛋白質核酸酵素 Vol54 No.8,共立出版株式会社,2009,628-634.
2) 山崎泰男,森田隆司:血液凝固因子・血小板に作用するヘビ毒タンパク質,一瀬白帝編集,図説 血栓・止血・血管学 血栓症制圧のために.2005,385-394.