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PWV・ABI(脈波伝播速度・足関節上腕血圧比) PWV・ABI (pulse wave velocity / ankle-brachial pressure index)
解説
脈波伝播速度(PWV :pulse wave velocity)
脈波伝播速度とは、脈波を体表面より測定可能な部位2カ所で記録し、2点間の距離と脈動の時間差から算出される値である。その計算式としては、PWV=(血管弾性率×血管壁厚)/(2×血管径×血液密度)で表される。よって、血管が硬いほど(血管弾性率)、血管壁が厚いほど(血管壁厚)、血管内腔が狭いほど(血管径)、脈波伝播速度は速くなる。現在、臨床で使用されるPWV測定法には、頸動脈と大腿動脈に測定用端子を圧着させる頸動脈-大腿動脈間PWV(carotid-femoral PWV;cfPWV)と、上腕動脈-足首動脈間PWV(brachial-ankle PWV;baPWV)(図1)がある。baPWVの測定手技は、血圧測定カフを四肢に装着することで、コンピュータによる自動解析が可能である。ABIと同時測定できる装置(図2)も開発され、簡便性・利便性のみならず、再現性にも優れている検査である。メタ解析においても、baPWV高値に伴う心血管イベントリスクはbaPWV低値例のほぼ3倍にのぼることが明らかとされている1)。動脈硬化を表すbaPWVが1,400cm/s 未満、狭窄を表す%MAP(%mean artery pressure)は45%未満がそれぞれ正常値で、baPWV 1,400cm/s以上、%MAP 45%以上は異常値である。baPWVと予後との関連を議論するにあたっては、同時に測定されたABIを参考とし、baPWV測定値が評価に値するか否かの確認が重要である。
ABIは、足関節収縮期血圧を左右の上腕収縮期血圧の高いほうの圧で除した値である。正常であれば、足関節血圧は上腕血圧より10~20mmHg程度高値であるために、ABIは1.0より大きくなる。ABIは閉塞性動脈硬化症(ASO)等の末梢動脈疾患(peripheral arterial disease;PAD)の診断および重症度評価の指標とされる。非透析患者の場合、安静時ABIが0.90以下の場合は、最大95%の感度で血管造影での狭窄病変が検出され、特異度もほぼ100%と報告されている2)。一方、重症糖尿病合併や維持透析例などの動脈中膜の強い石灰化により血管のコンプライアンスが低下している症例においては、血圧以上のカフ圧によっても血流が遮断されず、見かけ上ABIが高値となることがある。このような例では、足関節より中枢側の動脈に比し比較的に動脈石灰化が少ない足趾動脈の血圧を測定することで、より正確な評価が可能となる。よって、異常に高いABI(1.40)の場合は、足趾上腕血圧比(toe brachial pressure index;TBI)を参考とする3)。ABI 0.90もしくはABI 1.40、かつTBI≦0.60の症例では、末梢動脈疾患の精査はもちろんのこと、動脈硬化性脳・心血管疾患合併の確認を忘れてはいけない。仮に潜在的な脳・心血管疾患を認めなかった場合でも、定期的な経過観察は必要である。ABIに関して2011年度に改定された米国のガイドライン4)を図3に示す。
図表
参考文献
1) Vlachopoulos C, Aznaouridis K, Terentes-Printzios D, Ioakeimidis N, Stefanadis C: Prediction of cardiovascular events and all-cause mortality with brachial-ankle elasticity index: a systematic review and meta-analysis. Hypertension 60: 556-562, 2012.
2) Bernstein EF, Fronek A: Current status of noninvasive tests in the diagnosis of peripheral arterial disease. Surg Clin North Am 62: 473-487, 1982.
3) 大島淳子,味村啓司:当院透析患者の足趾上腕血圧比(TBI)と下肢血管エコーの検討,大阪透析研究会会誌 25巻1号:61-65,2007.
4) Rooke TW, et al: 2011 ACCF/AHA Focused Update of the Guideline for the Management of Patients With Peripheral Artery Disease (updating the 2005 guideline): a report of the American College of Cardiology Foundation/American Heart Association Task Force on Practice Guidelines. J Am Coll Cardiol 58: 2020-2045, 2011.
5)循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2011-2012年度合同研究班報告):循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2011-2012年度合同研究班報告),2013.