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  • 動脈バイパス手術 arterial bypass surgery

    2015/02/17 作成

    解説

    【概要】

     閉塞性動脈硬化症に対する動脈バイパス術(外科的バイパス術)について解説する。
     外科的バイパス術には、血栓内膜除去術とバイパス術があるが、代用血管を用いたバイパス術が最も多く行われる。代用血管としては、人工血管と自家静脈が主に用いられている。人工血管には、ダクロン繊維による布製人工血管、テフロンチューブを急速に伸展させることにより無数の亀裂をつくり多孔性、屈曲性をもたせたexpanded polytetrafluoroethylene (ePTFE)人工血管、ヒト臍帯静脈などの生体組織由来人工血管がある。自家静脈としては、大伏在静脈が主に使用されている。
     血行再建後の遠隔成績は、閉塞部位(大動脈・腸骨動脈領域か、大腿動脈以下か)、手術適応(間歇性跛行か、救肢か)、宿主動脈の狭窄性病変などに影響されるが、特に閉塞部位で大きく異なる。従って、閉塞部位ごとに術式を論じる。

    【大動脈腸骨動脈領域】
     大動脈腸骨動脈領域については、外科的バイパス術の長期成績は極めて良好である。特に解剖学的バイパス術(大動脈-大腿動脈バイパス術あるいは腸骨-大腿動脈バイパス術)の5年開存率は95%以上で、この領域の病変に対しては解剖学的バイパスを行うことが望ましい。しかしながら、ハイリスク症例や救肢あるいは感染のために腋窩-大腿動脈バイパスや大腿-大腿交叉動脈バイパス術のような非解剖学的バイパス術を余儀なくされることもある。近年、実際の臨床の現場では、特に腸骨動脈領域の病変においては血管内治療が行われており、また成績も良好である。

    【大腿・膝窩動脈領域】
     大腿・膝窩動脈領域の外科的バイパス術の成績は、大動脈・腸骨動脈領域の血行再建術の成績には劣る。大腿膝窩動脈バイパス術(膝上)のグラフト材料としては自家静脈と人工血管が用いられる。膝上バイパスでは両者の開存率には、あまり差がなく人工血管を使用する施設が多く、その5年開存率は70-80%前後である。

    【膝下膝窩動脈以下】
     膝下膝窩動脈以下へのバイパス術は原則として重症虚血肢に施行される。移植血管としては自家静脈の開存率が他のいかなるグラフトと比較しても優れている。バイパス成功の成否は使用する自家静脈の質により、直径が3mm以上あれば問題ないとされている。

    【大腿膝上膝窩動脈領域】
     大腿膝上膝窩動脈バイパス術の5年開存率は静脈グラフト使用の場合跛行症例では80%、重症下肢虚血(Ccritical limb ischemia: CLI)症例の場合では66%、PTFE使用した場合、跛行では75%、CLIでは47%との報告がある。また大腿膝下膝窩動脈バイパス術では静脈使用の場合70%、PTFE使用では65%と報告されている。

    参考文献

    1) 古森公浩:末梢動脈閉塞症(Peripheral arterial disease:PAD)に対する最新の治療戦略,日本血栓止血学会誌 24:38-44,2013.
    2) 古森公浩:第14章 大動脈および末梢動脈疾患6 末梢動脈疾患に対する外科的バイパス術循環器病学 基礎と臨床:1442-1445,2010.