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  • 慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH) chronic thromboembolic pulmonary hypertension(CTEPH)

    2022/11/16 更新
    2015/02/17 作成

    解説

    1)病態・病因
    器質化した血栓による肺動脈の狭窄や閉塞が原因となり肺高血圧(安静仰臥位での平均肺動脈圧が25 mmHg以上)を来した病態を指す。
    病因については不明な点が多く、急性肺血栓塞栓症からの移行例(急性の生存例の約0.10.5%、最近では3.8%との報告もある)以外に、肺動脈炎の関与も想定されている。CTEPHと最も関連がある凝固異常は抗リン脂質抗体症候群であり、およそ1020%でみられる。

    2) 疫学
    CTEPH
    の特定医療費(指定難病88)受給者証の所持者数は全国で 2,829 人であり、日本では女性に多いことが知られている。

    3) 検査と診断
    急性肺血栓塞栓症や他の原因による肺高血圧症との鑑別が重要であり、スクリーニング検査としては肺換気血流シンチグラフィが必須の検査といえる。造影CTでは近位側の壁在血栓が描出され、肺動脈造影ではpouch defects(小袋状変化)webs and bands(蜘蛛の巣状変化と帯状狭窄)intimal irregularity(血管壁の不整)といった特徴的な所見が認められる。

    4)治療の実際
    CTEPH
    に対する治療法には、内科的治療(肺血管拡張療法)、外科的治療(肺動脈血栓内膜摘除術(pulmonary endarterectomy; PEA))、肺動脈バルーン拡張術(balloon pulmonary angioplasty; BPA)があるが、根治性が証明されているのはPEAのみである。PEAの適応は、平均肺動脈圧30 mmHg以上、WHO機能分類3度以上、近位側に器質化血栓を有する症例であり、PEA施行によりQOLや生命予後の著しい改善が得られる。最近では、肺動脈末梢病変に対しBPAの有効性が報告されており、1症例あたり約3~4手技によって、平均肺動脈圧は41~45 mmHgから21~24 mmHg、肺血管抵抗は8.7~11.8 wood単位から2.7~4.1 wood単位、心係数は2.2~2.5 L/min/m2から2.9~3.2 L/min/m2、6分間歩行距離は296~360 mから368~420 mへ著明に改善したことが示され、高い効果をあげている。

    PEABPAの適応から外れる症例やPEABPA施行後にも肺高血圧が残存する症例に対しては肺血管拡張療法がおこなわれる。本邦でCTEPHに承認されている肺血管拡張薬は、可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激剤であるリオシグアトと選択的プロスタサイクリン受容体作動薬であるセレキシパグ(2021年8月承認)である。

    その他、血栓形成予防目的での抗凝固療法と低酸素血症に対する酸素療法はCTEPH治療の基本であり、抗凝固療法はPEABPA実施の有無にかかわらず、永続的な継続が必要である。抗凝固薬は主にワルファリンが使用されており、CTEPH に対する直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)の有効性や安全性を示すエビデンスは現時点では存在しない。

    参考文献

    1) 肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断,治療,予防に関するガイドライン(2017年改訂版)(班長:伊藤正明)JCS2017_ito_h.pdf (j-circ.or.jp)
    2) 肺高血圧症治療ガイドライン(2017年改訂版)(班長:福田恵一)JCS2017_fukuda_h.pdf (j-circ.or.jp)

    3) MizoguchiH, Ogawa A, Munemasa M, et al:Refined balloon pulmonary angioplasty for inoperable patients with chronic thromboembolic pulmonary hypertension. Circ Cardiovasc Interv 2012;5:748-55.

    4)  Inami T, Kataoka M, Shimura N, et al.: Pressure-wire-guided percutaneous transluminal pulmonary angioplasty: a breakthrough in catheter-interventional therapy for chronic thromboembolic pulmonary hypertension. JACC Cardiovasc Interv 2014:7; 1297-36.

    5) Inami T, Kataoka M, Ando M, etal: A new era of therapeutic strategies for chronic thromboembolic pulmonary hypertension by two different interventional therapies; pulmonary endarterectomy and percutaneous transluminal pulmonary angioplasty. PLoS One 2014; 9: e94587.