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  • アプロチニン aprotinin

    2015/02/17 作成

    解説

    【定義】
     トロンビン,活性化凝固第X因子には作用しないが,プラスミン,カリクレイン,トリプシン,キモトリプシンを高い活性で阻害するセリンプロテアーゼ阻害剤である。


    【一般名(商品名)】
     アプロチニン(トラジロール)

    【適応】 急性循環不全(外傷性ショック,細菌性ショック)

    【作用機序】
    1)実験的ショックモデルにおいて生存時間を延長し,生存率を増加する(イヌ,ラット)。
    2)ライソゾーム膜を安定化し,ライソゾーム酵素の逸脱を防止する(ラット)。
    3)MDF(心筋抑制因子)の産生を抑制し,心不全やショック肺を防止する(イヌ,ラット)。
    4)ショックによって低下したRES機能を速やかに回復させる(ヒト)。

    【半減期・代謝経路・血中濃度】
     健康成人に131I-アプロチニン50,000単位を静脈内に投与した場合,血中濃度は平衝に達するまで急速に下降する。血中濃度の低下は投与後1~12時間の時期では二つの指数函数曲線に適合し,半減期はそれぞれ0.7及び7時間である。

    【代謝・排泄】
     ラットに131I-アプロチニン10μg(50単位)を静脈内投与した実験では,主に近位尿細管上皮細胞内に濃縮され,24時間後には尿中に30%以上,また糞便中に2%以上が認められている。尿中には大部分が生物学的活性のない代謝物として排泄される(ラット)。

    【ポイント】
    1)一般にトリプシンインヒビターには大豆や卵白由来のトリプシンインヒビターとウシ肺臓由来のアプロチニンがある。トリプシンインヒビターはトリプシンを特異的に阻害するのに対し、アプロチニンはすべてではないが多くのセリンプロテアーゼを阻害することができる。
    2)アプロチニンは、16種のアミノ酸総計58個が鎖状に結合した塩基性ポリペプチドである。
    3) 組織中には特に、肺、脾、肝、膵に存在し、肺由来のものを特にBPTIという。
    4)プロテアーゼインヒビターとしての作用機序はセリンプロテアーゼの活性中心と競合阻害することによる。
    5)適応症は外傷性ショック、急性循環不全、細菌性ショックで使用濃度は0.06−2 μg/ml (0.01−0.3 μM)である。
    6)アプロチニンは、海外では冠動脈バイパス術(CABG)の際の出血を減らし、血小板機能を維持するために用いられてきたが、全死因死亡の増加が示唆された経緯がある。
    7)副作用として、1. ショック、アナフィラキシー様症状、発赤、蕁麻疹、呼吸困難、喘鳴、胸内苦悶、血圧低下、脈拍微弱、チアノーゼ、2. 過敏症、蕁麻疹、そう痒、発疹、発赤、顔面潮紅、発熱、血管痛、血栓性静脈炎、肝機能障害、3. アナフィラキシー反応、心筋梗塞、心筋虚血、冠動脈閉塞症、冠動脈血栓症、血栓症、肺塞栓症、心膜液貯留、播種性血管内凝固症候群、凝固障害、乏尿、急性腎不全、腎尿細管壊死が報告されている。また、トロンビンとアプロチニンとの併用は凝固系の促進と線溶系の抑制を招くおそれがあり、血栓形成が増大する可能性がある。

    引用文献

    1) Deanda A Jr1, Spiess BD: Aprotinin revisited. J Thorac Cardiovasc Surg. Nov: 144(5): 998-1002, 2012.

    参考文献

    1) McMullan V, Alston RP. III. Aprotinin and cardiac surgery: a sorry tale of evidence misused. Br J Anaesth. May: 110(5): 675-678, 2013.