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cAMPによる血小板活性化制御
解説
【概要】
1966年にKloeze JによってプロスタグランジンE1 (PGE1)が血小板活性化を抑制することが報告され、その抑制はcyclic AMP(cAMP)によること(Marquis NR、1969)、さらに、血管内皮細胞の由来するプロスタサイクリン(プロスタグランジンI2)が血小板でのcAMP産生に中心的な役割を担っていることが明らかとなってきた(Moncada S、1976).
血管内皮細胞が産生するプロスタサイクリンは強力に血小板機能を抑制する.プロスタサイクリンは血小板のアデニレートシクラーゼ(AC)を介してATPからcAMPを産生させる.cAMPはcAMP依存性キナーゼであるprotein kinase A (PKA) IとPKA IIを刺激して、それらの基質タンパクのリン酸化を引き起こす.その結果、低分子量GタンパクであるRasやRhoファミリーの活性化、細胞内顆粒からのCa 2+ 放出の抑制、細胞骨格再編の調節などが引き起こされる.すなわち、プロスタサイクリンによる情報はPKAの基質を介して血小板の粘着、顆粒放出、凝集反応を抑制する.ACにより産生されたcAMPは、その分解酵素であるホスホジエステラーゼ(PDE)によって分解され、活性を失ってその役割を終える.
【cAMP産生の調節】
遊離cAMPの濃度はACによって調節されている.プロスタサイクリンはIP受容体に結合することで受容体に結合しているGsが活性化されてGTPと結合して活性化型となる(Gs-GTP).Gs-GTPはACと結合してATPからcAMPの合成を促進させるが、regulator of G-protein signaling 2(RGS2)のGTPase活性作用によってGTPがGDPに水解されて、不活性型のGs-GDPとなることで、Gsを介したACの活性化は遮断される.IP受容体以外に、Gsを介したAC活性化に関連するGsにカップリングした受容体としてアデノシン受容体(A2A、A2B)、VPAC1受容体が挙げられる.一方、P2Y12ADP受容体やα2アドレナリン受容体はGiを介してACの機能を抑制してcAMPレベルを低下させる.
【PDEを介したcAMPの分解】
血小板にはPDE2A、PDE3A、PDE5Aが発現しており、cAMPはPDE2とPDE3により調節されている. PDE2はGAFドメインにcGMPが結合することで活性化され、また、PDE3のcAMP結合部位にcGMPが競合することでPDE3活性は抑制される.PDE3AはPKAによるリン酸化によって活性化されることからcAMPに対してネガティブフィードバックの調節をおこなっている.
【cAMP依存性キナーゼ(PKA)とその基質】
cAMPがPKAの調節サブユニットに結合すると、触媒ユニットが解離してPKAの基質をリン酸化して血小板活性化を抑制する.PKAの基質は情報伝達調節分子とアクチン結合タンパクの二つに大別される.前者にはRap1B、Rap1GAP2、Gα13、IP3-受容体、TRPC6、PDE3Aなどがあり、後者にはVASP、LASP、HSP27、Filamin-Aなどがある.
【抗血小板薬】
シロスタゾールはPDE3Aの抑制を介して血小板内cAMPの増加を促進して血小板活性化を抑制する.また、P2Y12阻害薬であるチクロピジン、クロピドグレル、プラスグレルはcAMPの低下を抑制することで血小板活性化を抑制する.
参考文献
1) Smolenski A: Novel roles of cAMP/cGMP-dependent signaling in platelets. J Thromb Haemost 10: 167-176, 2011.
2) Noé L, Peeters K, Izzi B, Van Geet C, Freson K: Regulators of platelet cAMP levels: clinical and therapeutic implications. Curr Med Chem 17: 2897-905, 2010.