- 大分類
-
- 凝固
- 小分類
-
- 疾患
先天性凝固第V・第VIII因子複合欠乏症 combined FV and FVIII deficiency
解説
概要
凝固第V因子と凝固第VIII因子の先天性欠乏症は、それぞれ凝固第V因子欠乏症(常染色体劣性遺伝)、血友病A(X連鎖性劣性遺伝)として知られるが、先天性凝固第V・第VIII因子合併欠乏症はこれらと異なる常染色体劣性遺伝性の疾患で、両タンパク質の細胞内輸送に必要な小胞体分子シャペロンの異常を原因とする。有病率は100万人に一人と推定されているが、血族結婚の多い中東のユダヤ人、ユダヤ人以外のイラン人では10万人に一人と推計されている。
病態
小胞体膜に結合したリポゾーム上でmRNAより翻訳合成された新生ポリペプチドは、小胞体に挿入された後、各種小胞体分子シャペロンと結合することによって、糖鎖、ジスルフィド結合などの付加、高次構造、立体構造の形成、ゴルジ体への輸送が行われる。凝固第V因子と凝固第VIII因子は分子量やその立体構造が比較的類似しており、共に小胞体分子シャペロンのlectin mannose-binding 1(LMAN1)とMultiple coagulation factor deficiency protein 2 (MCFD2)に結合することによって、ゴルジ体へ輸送される。凝固第V・第VIII因子合併欠乏症はこのLMAN1またはMCFD2の分子異常によって、凝固第V・第VIII因子の小胞体-ゴルジ体間の輸送不全が起こり、両因子の低下をきたす疾患である。
症状
血漿中の凝固第V因子、凝固第VIII因子活性はいずれも5~30%と幅広く分布し、外傷や手術後の止血困難、鼻出血、歯肉出血、皮下出血、月経過多など、中等度から軽度の出血傾向を来す。関節内出血や消化管出血、脳出血などの報告は少ない。
治療
出血傾向が中等度~軽度であるため、出血症状が軽度であれば凝固因子の補充療法を必要としない。
中等度の出血の場合は、中枢性尿崩症の治療薬である酢酸デスモプレシン(DDAVP:l-deamino-8-. D-arginine vasopressin)が有効な場合がある。DDAVPは血管内皮細胞からフォン・ヴィレブランド因子を放出させる作用を持つため、これに伴って凝固第VIII因子活性もある程度上昇する。小規模の外科処置や月経過多を症状とする女性患者の場合などは、血液製剤への曝露を回避するために、DDAVPを用いた止血治療が考慮される。
しかし、大きな外科的処置や重症の出血時には、DDAVPによる止血治療では効果が不十分となるおそれがあり、凝固因子の補充療法が推奨される。この場合は、凝固第V因子と凝固第VIII因子両方の補充が必要で、新鮮凍結血漿(FFP)と凝固第VIII因子製剤の投与を行う。FFPにも凝固第VIII因子は含有されているが、凝固第V因子の半減期(12~36時間)に比較し凝固第VIII因子の半減期が短い(8~12時間)ため、FFPのみの投与では必要な凝固第VIII因子活性を維持できないことから、両者の併用が推奨される。
参考文献
1) Zheng C, Zhang B: Combined deficiency of coagulation factors V and VIII: an update. Semin Thromb Hemost 39: 613
2) 横山健次:先天性第V,VIII因子合併欠乏症,日本臨床 別冊血液症候群第2版,510-512,2013.