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  • 先天性無巨核球性血小板減少症(CAMT) congenital amegakaryocytic thrombocytopenia (CAMT)

    2015/02/17 作成

    解説

    病態・病因

     先天性無巨核球性血小板減少症(CAMT)の患者では、トロンボポエチン(TPO) レセプターであるc-MplをコードするTPO受容体(MPL)遺伝子に変異 (mutation) を認め、このために巨核球の成熟に必須のTPOシグナルが入らず、生下時から重症の血小板減少を来たす。TPOシグナルは巨核球の成熟のみならず、造血幹細胞の維持にも必要であり、血小板減少から次第に造血不全へと進行する。このためCAMTは先天性骨髄不全症候群の一病型として分類されている。遺伝形式は常染色体劣性遺伝で、ホモ接合体(homozygote)または複合ヘテロ接合体(compound heterozygote)として発症する。CAMTでみられる遺伝子変異には、タイプI,IIの2種類がある。タイプIでは、終止コドン(nonsense mutation)やフレームシフト(frameshift mutation) の出現によりc-Mplの細胞内ドメインがほぼ完全に欠失し、TPOシグナルが全く入らないため早期に造血不全に陥る。これに対してタイプIIではアミノ酸置換を来たすmissense mutationが主体であり、一般的にタイプiに比べて造血不全への進行が遅い。他の先天性身体異常を伴うことはない。


    疫  学

     きわめて稀な疾患であり、今日までの報告は100例以下である。


    症  状

     生下時から血小板減少を来し、出血傾向(皮下出血、粘膜出血)で発症し、その後3系統の造血不全に陥ることが多い。診断時の血小板数は50,000/μl以下で、20,000/μl以下のことが多い。タイプIの患者が早期に造血不全に陥るのに対し(mean onset: 1歳11カ月)、タイプIIの患者では生後1年以内に血小板数の一時的な改善をみることがあり、その後やや遅れて造血不全へと進行する(mean onset: 5歳)。さらにCAMTの患者は骨髄異形成症候群、急性骨髄性白血病などの造血器腫瘍を発症するリスクがある。


    検査と診断

     診断時の血小板数中央値は21,000/μlで、血小板に形態、サイズの異常は認めない。骨髄中の巨核球は著減し、血中TPOは正常の10-50倍と著しい高値を示す。CAMTの診断には、最終的にはMPL遺伝子の解析が必要であるが、CAMTがきわめて稀な疾患であることを考慮すると、生下時から重症血小板減少症を認めた場合には、まず他の先天性あるいは後天性血小板減少症を除外する必要がある。他の先天性血小板減少症との鑑別には、血小板サイズ、血小板減少以外の先天性異常の合併の有無、血小板減少の家族歴などが参考になる。生下時から重症血小板減少症を来す後天性疾患としては、新生児同種免疫性血小板減少症の頻度が高く鑑別が必要である。これらの鑑別診断の後にCAMTを疑った場合には、血小板や巨核球のTPOに対する反応性の低下、MPL遺伝子異常の同定によって診断を確立するが、いずれも研究室レベルでの評価が必要な検査である。


    治療の実際

     重篤な血小板減少を認めるときには、対症療法として血小板輸血が必要になる。今日まで確立されている唯一の根治的治療法は、同種造血幹細胞移植である。通常はHLAの一致した同胞がドナーとして最適であるが、非血縁者間移植の報告もある。移植の最適なタイミングは知られていないが、移植前の頻回の血小板輸血による同種抗原への暴露、ウイルス感染を避けるために、通常は造血不全に陥る前の移植を目指す。遺伝子治療に関しては未だ研究段階である。

    参考文献

    1) Germeshausen BM: Advances in the understanding of congenital amegakaryocytic thrombocytopenia. Br J Haematol 146: 316, 2009.
    2) Geddis AE: Congenital amegakaryocytic thrombocytopenia. Pediatr Blood Cancer 57: 199203, 2011.
    3) 日本小児血液・がん学会,血小板委員会:先天性血小板減少症・異常症の診断アルゴリズム. http://www.jspho.jp/pdf/itp/HPshindan.pdf