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免疫寛容導入療法(ITI) immune tolerance induction therapy(ITI)
解説
1)免疫寛容導入療法とは
血友病A(B)患者の出血時あるいは定期補充投与に凝固第VIII(IX)因子製剤が使用されるが、重症や一部の中等症では、投与された第VIII(IX)因子が異物と認識されて同種抗体(インヒビター)が出現することがある。免疫寛容導入療法(ITI: immune tolerance induction therapy)は、凝固第VIII(IX)因子を反復投与し、インヒビターの消失を図る治療である。ITIは現在のところインヒビターを消失させることができる唯一の治療法である。
2)ITIの歴史
ITIは1977年に初めて報告され、その後、Bonnプロトコール、van Creveldプロトコール、Malmoプロトコールなどが使用され、成功率は53~79%であった。2002年から高力価インヒビター保有血友病Aに対する国際臨床試験が行われた。高用量群(200 IU/kg毎日1回投与)と低用量群(50 IU/kgを週3回投与)とに無作為割り付けされ、成功69.7%、部分的成功4.5%、失敗25.8%であった。高用量投与群の成功例は41%、低用量投与群の成功例は39%で両群間に有意差を認めなかった。インヒビターの陰性化および回収率の正常化までの期間は、高用量投与群で有意に短かった。ITI中のインヒビター力価の最高値と、治療成功率とは負の相関を示した。低用量投与群で有意に出血頻度が高かったため、この研究は2009年に中止された。
3)ITIの現在の考え方
すべてのインヒビター保有患者(特に小児)はITIを考慮されるべきである。成人は新規に診断されたインヒビター患者あるいは過去5年間にインヒビター陽性と診断された患者は、ITIの候補者とすべきである。国際およびヨーロッパのガイドラインによると、インヒビター力価が10 BU/ml未満の場合にITIの開始を推奨している。長期間インヒビター力価が低い成人患者(5 BU/ml未満)も、出血のコントロールがうまくいかない場合にはITIを考慮すべきである。小児ではITIの成功はITI開始時のインヒビター力価が10 BU/ml未満で、過去のインヒビター力価の最高値が200 BU/ml未満であることが重要である。血友病B患者のITI成功率は相対的に低く、ネフローゼ症候群などの腎障害にも配慮が必要である。
4) その他のポイント・お役立ち情報
血友病A患者のITIに凝固FVIII因子製剤を使用した場合、その成功率は53~79%である。初回のITIに対して部分的成功あるいは不成功の場合、フォン・ヴィレブランド因子(VWF)含有凝固FVIII因子製剤に変更してITIを施行することがある。VWF含有血漿由来凝固FVIII因子製剤によるITI成功率は52~100%である。ITI不成功例に対してsalvage療法としてVWF含有凝固FVIII因子製剤を投与する患者群(RESISTexp)とITIの初期治療として同製剤を投与する患者群(RESISTnaive)に分け、VWF含有凝固FVIII因子製剤の有用性を比較検討する前方視的研究が現在行われており、その結果が待たれる。(参考「濃縮凝固FVIII因子製剤/濃縮凝固FIX因子製剤/濃縮凝固FXIII因子製剤」)
参考文献
1) 武山雅博他:血友病インヒビターの免疫寛容療法,臨床免疫・アレルギー科59(6):675-681,2013.