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  • 典型(志賀毒素)HUS Shiga toxin-induced HUS

    2015/02/17 作成

    解説

    1) 疾患の病因・病態

     典型的溶血性尿毒症症候群(typical HUS: aHUS)は志賀毒素によって惹起される血栓性微小血管症(thrombotic microangiopathy: TMA)で微小血管症性溶血性貧血、血小板減少症、急性腎障害の三主徴を呈する疾患と定義される。


    2) 検査と診断

     三主徴の診断基準およびその随伴症状を下記に示す。

    1. 微小血管症性溶血性貧血:ヘモグロビン10g/dL未満
    2. 血小板減少:血小板数150,000/μL未満
    3. 急性腎障害:小児例:年齢・性別による血清クレアチニン基準値の1.5倍以上への上昇

     微小血管症性溶血性貧血の診断に際してはLDH上昇、ハプトグロビンの著減、ビリルビン上昇、破砕赤血球の確認を行う。クームス試験は陰性である。


    随伴症状

    1. 中枢神経症状:頭痛、意識障害、痙攣、出血性梗塞など
    2. 消化管症状:下痢、血便、腹痛、消化管穿孔、直腸脱、腸重積など
    3. 心症状:心筋梗塞による心不全
    4. 膵炎
    5. 播種性血管内凝固症候群(DIC)

     先行する志賀毒素産生性腸管出血性大腸菌感染の証明が診断に際しては重要であるa)
    ・便中腸管出血性大腸菌の検出:便培養(志賀毒素産生菌の検出)

    ・便中志賀毒素検出

    ・PCR法による便中志賀毒素遺伝子検出

    ・患者血清中O157 LPS抗体の検出など

     診断に際してはADAMTS13(a disintegrin-like and metalloproteinase with thrombospondine type1 motif 13)著減(<10%)に伴う血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura: TTP)を除外する。


    3) 治療

     支持療法を中心とした全身管理が、治療の中心である。

    1. 輸液管理

     HUS発症前下痢発症早期の段階での等張液製剤による積極的な輸液療法により急性腎障害の発症予防と透析療法の回避の可能性が報告1)2)され勧められているがb)、HUS発症後は乏・無尿期の過剰な輸液により高血圧、肺水腫、電解質異常などの溢水に陥る危険性が生じるため、水分出納をとった輸液とする。

    2. 輸血療法

     赤血球輸血は、溶血による血清ビリルビンの上昇、胆石形成を助長する可能性があることより、溶血性貧血に対する濃厚赤血球輸血は必要最小量とし、血中ヘモグロビン値6.0g/dLを目安とする。血小板減少に対する血小板輸血は血栓形成の危険性があり、原則禁忌と考え、著明な出血傾向や大量出血の時にのみ考慮する。

    3. 透析療法

     内科的治療に反応しない乏・無尿、高カリウム血症、低ナトリウム血症などの電解質異常、代謝性アシドーシス、高血圧、肺水腫などの溢水を認める場合や、腎機能低下により輸液スペースが確保できない場合に適応となる。透析方法は、各施設や患者の全身状態(循環動態への影響、脳症合併の有無)などを考慮し決定する。

    引用文献

    1) Ake JA, Jelacic S, Ciol MA, Watkins SL, Murray KF, Christie DL, Klein EJ, Tarr PI: Relative nephroprotection during Escherichia coli O157:H7 infections: association with intravenous volume expansion. Pediatrics 115: e673680, 2005.
    2) Hickey CA, Beattie TJ, Cowieson J, Miyashita Y, Strife CF, Frem JC, Peterson JM, Butani L, Jones DP, Havens PL, Patel HP, Wong CS, Andreoli SP, Rothbaum RJ, Beck AM, Tarr PI: Early volume expansion during diarrhea and relative nephroprotection during subsequent hemolytic uremic syndrome. JAMA 165: 884-889, 2012.

    参考文献

    a) 厚生労働省:感染症法に基づく医師及び獣医師の届出について.3.腸管出血性大腸菌感染症. http//www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-03-03.html
    b) 五十嵐隆,斎藤昭彦,伊藤秀一,幡谷浩史,水口雅,森島恒雄,大西健児,川村尚久,北山浩嗣,芦田明,要伸也,種市尋宙,佐古まゆみ,溶血性尿毒症症候群の診断・治療ガイドライン作成班:溶血性尿毒症症候群の診断・治療ガイドライン,東京,東京医学社,2014.