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抗線溶療法の適応
解説
抗線溶薬としてトラネキサム酸が使用可能である。トラネキサム酸はプラスミノゲンの高親和性リジン結合部位へ結合し、プラスミノゲンのフィブリン結合をほぼ完全に阻害して抗線溶作用を発現する。静注後24時間以内にほぼ95%が未変化体として尿中排泄される(ラット)。保険適応は、全身性および局所性線溶亢進が関与すると考えられる出血傾向であり、通常は手術中・術後の全身性・局所異常出血、肺・腎・鼻・性器・尿路出血等に止血薬として使用される。トラネキサム酸による出血量減少と予後改善を目的としたランダム化比較試験が数多く施行されており、体外循環使用手術、整形外科手術、脳・脊髄手術、一般外科手術、月経過多症例、分娩後出血、消化管出血、外傷などでトラネキサム酸の有効性が報告されている。234件のランダム化比較試験を検討したシステマティックレビューでは、トラネキサム酸投与は血栓形成は増加させないものの、2g/dayを超える高容量投与によって痙攣リスクが増加することが報告されている。また、腎排泄のために腎機能不全症例では慎重投与が必要である。
播種性血管内凝固(DIC)と明記された病名での保険適応はないが、線溶亢進型DICでは抗線溶療法の有効性を示唆する報告がある。日本血栓止血学会による「日本血栓止血学会播種性血管内凝固(DIC)診療ガイドライン2024」では、複数の背景疾患に合併するDICにおいてトラネキサム酸に対する推奨が表記されている。1)急性前骨髄球性白血病(APL)に伴うDICにおいて、ATRA投与中のトラネキサム酸投与は重症血栓症併発および死亡報告があることから、強く推奨しないとされている(強い推奨/低の確実性のエビデンス:GRADE 1C)。2)産科危機的出血に伴うDICにおいて、トラネキサム酸を早期投与することが弱く推奨されている(弱い推奨/低の確実性のエビデンス:GRADE 2C)。3)DIC/凝固線溶異常を発症している重症外傷患者において、トラネキサム酸を早期投与することが強く推奨されている(強い推奨/中の確実性のエビデンス:GRADE 1B)。
このように抗線溶薬としてトラネキサム酸を投与する場合に留意することは、背景疾患の線溶亢進の程度を適切に評価し、適切なタイミングで機を逸せず投与することが肝要である。
参考文献
1) DIC診療ガイドライン作成委員会:日本血栓止血学会播種性血管内凝固(DIC)診療ガイドライン2024. 日本血栓止血学会誌. 36: 68-156, 2025.
2) MacCormick PL: Tranexamic acid: a review of its use in the treatment of hyperfibrinolysis. Drugs 72: 585-617, 2012.
3) Murao S, Nakata H, Roberts I, Yamakawa K. Effect of tranexamic acid on thrombotic events and seizures in bleeding patients: a systematic review and meta-analysis. Crit Care. 25:380, 2021.