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  • Upshaw-Schulman症候群(先天性TTP) Upshaw-Schulman syndrome

    2023/04/12 更新
    2015/02/17 作成

    解説

    (病態・病因)

     Upshaw-Schulman症候群(USS)は1960年にSchulmanら、また1978年にUpshawによって報告された疾患で、その特徴として「新生児期に交換輸血を必要とするCoombs試験陰性の重症黄疸があり、その後も血小板減少と溶血性貧血を反復するが、これら症状が新鮮凍結血漿 (fresh frozen plasma, FFP)の輸注により劇的に改善する」原因不明の血液疾患として知られていた。症状反復性から、Moake等は1982年から慢性再発性血栓性血小板減少性紫斑病 (chronic relapsing TTP, CR-TTP)という病名を用い、寛解期の4名の患者血中に超巨大 VWF多重体が出現するとの重要な観察を行ったが、結果的にこの病名は血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)が先天性と後天性(後天性TTP)に起こるという事実を曖昧にしてしまった。

    実際、1997年Furlanらは別の4例のCR-TTP患者では VWF切断酵素 (VWF-CP、後のADAMTS13) 活性が著減しているというブレークスルーを発見した。しかし、後方視的にはうち2例は兄弟例で先天性と思われるものの、残り2例は明らかに後天性と判断され、さらに前者の兄弟例の両親は正常の VWF-CP活性を示す等、やや整合性を欠く報告がなされた。筆者はFurlanらの報告を受け、本邦USS3家系のVWF-CP活性を測定し、患者はいずれも<3%の検出限界以下に低下している事、また患者の両親はいずれも正常の約半分(50%)に低下している事を報告した。この後、間もなく VWF-CPがADAMTS13である事、またこの遺伝子異常が家族性TTP患者に見られることがLevyらによって報告され、USSの診断名が復活した。

     
    (疫学および検査と診断)

     以後、USS患者は現在迄に世界中で約150人が発見されており、140種類の変異部位が同定されている。日本はUSS患者のコホート研究では世界をリードしており、実際、奈良医大と国立循環器病センター研究所の共同研究により、本邦USS 患者55名の診断と54種類のADAMTS13遺伝子変異を同定している。USSの遺伝形式は常染色体劣性で、患者の両親が血縁の場合はホモ接合体変異を、また非血縁の場合は複合ヘテロ接合体が多い。当然、両親はいずれか一方の遺伝子異常を持ち、血漿ADAMTS13活性は約50%に半減しているが無症状である。

    USS患者は発症時期によって、early-onset typeとlate-onset typeの2型が示されている。その違いが何故か? という疑問は未だ完全には解決されていない。しかし、USS患者がTTP発作を起こすには様々な増悪因子の関与が示されており、これらには、インフルエンザのような重症感染症、妊娠、加齢、大量飲酒、酢酸デスモプレシン(DDAVP)使用、等が知られている。さらにADAMTS13活性測定法の感度上昇によって、活性が絶えず<0.5%のものと、それ以上のものでは明らかにphenotypeが異なる事も示されてきた。

     
    (治療の実際)

     USSには通常、2週間に1度の割合で 新鮮凍結血漿(FFP)5~10ml/kg体重の予防投与が行われているが、最近のデータではこの量と頻度では慢性腎不全への移行を完全に防止出来ないとの報告もあり、早期にADAMTS13 濃縮製剤(遺伝子発現または血漿由来)の臨床応用が望まれている。

    引用文献

    1) Schulman I, Pierce M, Lukens A, Currimbhoy Z: Studies on thrombopoiesis. I. A factor in normal human plasma required for platelet production; chronic thrombocytopenia due to its deficiency. Blood 16:943-57, Epub 1960/07/01.
    2) Upshaw JD, Jr: Congenital deficiency of a factor in normal plasma that reverses microangiopathic hemolysis and thrombocytopenia. The New England journal of medicine 298(24): 1350-1352, Epub 1978/06/15.
    3) Moake JL, Rudy CK, Troll JH, Weinstein MJ, Colannino NM, Azocar J, et al: Unusually large plasma factor VIII:von Willebrand factor multimers in chronic relapsing thrombotic thrombocytopenic purpura. The New England journal of medicine 307(23): 1432-1435, Epub 1982/12/02.
    4) Furlan M, Robles R, Solenthaler M, Wassmer M, Sandoz P, Lammle B: Deficient activity of von Willebrand factor-cleaving protease in chronic relapsing thrombotic thrombocytopenic purpura. Blood 89(9): 3097-3103, Epub 1997/05/01.
    5) Kinoshita S, Yoshioka A, Park YD, Ishizashi H, Konno M, Funato M, et al: Upshaw-Schulman syndrome revisited: a concept of congenital thrombotic thrombocytopenic purpura. International journal of hematology 74(1):101-108, Epub 2001/09/04.
    6) Levy GG, Nichols WC, Lian EC, Foroud T, McClintick JN, McGee BM, et al: Mutations in a member of the ADAMTS gene family cause thrombotic thrombocytopenic purpura. Nature 413(6855):488-94, Epub 2001/10/05.

    参考文献

    1) Fujimura Y, Matsumoto M, Yagi H, Yoshioka A, Matsui T, Titani K: Von Willebrand factor-cleaving protease and Upshaw-Schulman syndrome. International journal of hematology75(1): 25-34. Epub 2002/02/15.
    2) Mise K, Ubara Y, Matsumoto M, Sumida K, Hiramatsu R, Hasegawa E, et al: Long term follow up of congenital thrombotic thrombocytopenic purpura (Upshaw-Schulman syndrome) on hemodialysis for 19 years: a case report. BMC nephrology 14: 156, 2013, Epub 2013/07/23.